クールな彼女⑧
アーベルはライアットカンパニーの社長一家であり筆頭株主だ、オスカルの家にも引けを取らない家柄と格式と王家の血筋まで持つ財界の大物だ。
ジョゼフはオスカルが父の秘書として働いているのを知り、父に頼んで以前から憧れていたオスカルに付き合いの申し込みをした。
だが、オスカルはそのとき、前世の恋人であるアンドレと添い遂げる決意であったため、断った。
そして俺と出会って愛し合ったのだが、再びジョゼフとの縁談が再浮上して今度は縁談を受け入れた。
これは何故だ?
エメが言うには
「もしかして貴方がオスカルをかばって怪我をしたことと関係があるのかも?彼女相当参ってたもの」
「けど普通は彼女をかばって怪我した貴方に気持ちが行くものなのに、そこが不思議なのよね」
そうなんだ、オスカルの俺への愛は疑いようも無く強かったはず。
しかし、先日のオスカルには完全否定されてしまい、愛されている自信さえ失いそうだ。
俺は彼女に会い、真意を確かめたい!
そう思い、エメに教えてもらったアーベル氏の屋敷に出かけようとした。
しかし、突然エメが俺を止めた。
「アンドレ、突然出向いたところでアポも無しに屋敷に入れてくれるわけ無いでしょ!」
「しかし、オスカルはアーベル氏の屋敷にいる可能性が高い、アーベル家にいかなければオスカルの居場所がつかめないんだ」
「貴方一人で乗り込んでもつまみ出されるだけよ、それより貴方は人気コラムニストなんだからそれを最大限に活用すべきでしょ!」
「コラムニストとしての立場を活用する?」
「貴方には丁度運がよく、我が「モン・ラパン」でライアット社の次期社長となるルイ・ジョゼフを独占取材することになっているの、それに貴方も同行させてあげるわ」
「その代わりルイ・ジョゼフの記事を貴方が書くのよ、人気コラムニストが書く、若き実業家ルイ・ジョゼフってとこね」
エメの仕事に利用されてるみたいで、気持ちよくは無いが、オスカルに会うには現在この方法が最適のようだ。
それにルイ・ジョゼフに話もさせてもらえるのだから、彼が本気でオスカルを愛しているのか、オスカルは本当に彼と結ばれる気なのか、知るチャンスでもある。
だから、俺はエメの話に乗ることにした。
「わかった。だがルイ・ジョゼフと俺で自由に話す時間をくれ!」
ジョゼフはオスカルがこの屋敷に来てからイベントの内容の確認、新商品の運搬の手配、スタッフの手配など綿密に話し合いをしてすごしていた。
今回のイベントはジョゼフの次期社長として期待がかかっている、だから失敗は許されない、そのためもあって二人は熱心に取り組んだ。
そして、たまに休息にとジョゼフはオスカルを誘って散歩したり乗馬を楽しんだりもした。
広い屋敷内には馬小屋もあり、屋敷付近の土地は主にアーベル家のものだ、ジョゼフは趣味のひとつが乗馬でオスカルと馬に乗れる日が訪れ、うれしくてたまらない様子だった。
「オスカル、覚えていますか二人で馬に乗ったことを、再び貴方とこうして過ごせるなどまるで夢のようです」
「ええ、覚えています、あの頃の貴方は幼かったのに、いまや立派な若者だ!背など私より大きい」
「昔は貴方に守られたけれど、今なら貴方を守ることも出来る」ジョゼフはオスカルに熱い視線を送ってきた。
やがて馬を休息させるために池のほとりにたどり着いた。
馬が水を飲んでいる間、ジョゼフはオスカルに語った。
「オスカル、以前もこうやって二人で馬に乗って過ごしましたね、途中で僕は発作を起こして、こんな池のほとりで貴方に介抱された」
「ええ、、貴方は本当に乗馬がお好きだったから、はしゃぎすぎて困りましたよ」
「そして・・・僕は貴方に口付けしたんだ・・・こんな風に・・・」
ジョゼフは突然オスカルを頬を捉えて口付けを交わしてきた。
突然のことにオスカルは一瞬呆然としてしまったが、すぐにジョゼフの腕の中から逃げ出してしまった。
「ああ、すみません、貴方とこうしていると、ついうれしくてわれを忘れてしまいました・・・でも、オスカル、これは遊びなんかではありません!僕は真剣に貴方のことを思っていることはわかってください」
「ジョゼフ・・・わかっています、わかっているのです、貴方の心は本当にうれしい、だから受け入れたいとは思っているのですが、・・・まだ、私には・・・」
「そうですね、貴方の心を手に入れるにはまだ早かった、貴方を大事にする、といったのに・・・もうこんなことはしないので安心してください」
「いいえ、いいえ、ジョゼフ貴方は悪くない!悪いのは私なのだ」
ジョゼフに口付けされたとき、アンドレの顔が浮かんだ、だから、余計に激しく拒んでしまった。
アンドレ以外の男性と口付けするのは、やはり辛いこともあるが、それ以上に、アンドレが悲しむ、と思ってしまった、しかもジョゼフと二人で過ごしているときもいつの間にかアンドレのことを考えてしまう。
私はどれだけ彼のものなのだ。・・・
オスカルとしてはジョゼフが健康な身体で生まれ変わったのを喜ばしく思い、こうして一緒にすごせるのは、うれしくはあるのだが、しかし、彼を愛せるのだろうか、好意を持っているには違いないが、アンドレに対する気持ちとは、やはり違う。・・・
そんなある日、昼食を取っているときに、ジョゼフがそうだ忘れていたと言い出した。
「オスカル、今度有名雑誌のモン・ラパンが取材に来るんです」
オスカルはモン・ラパンの名前を聞いてスプーンを落としてしまった。
「ああ、失礼、モン・ラパンとは女性に関するあらゆる情報を発信するファッション雑誌ですよね」
「そうです、僕を独占取材させてほしいというのです、社長の息子で会社のホームページを作って遊んでいる変り種なので話を聞いてみたいのでしょう」
「僕としては、ホームページとライアットの家具の宣伝になるのでお受けしたんです、オスカル貴方も側についていてくれませんか?」
「私が?」
「そうです、出来れば僕をサポートしてほしいのです、僕はまだ世間知らずですから父の秘書をしていた貴方が側にいてくれれば心強い」
「・・・わかりました、私がお役に立つなら」
しかし、モン・ラパンの取材とは!アンドレがコラムを連載しているモン・ラパンが。・・・