クールな彼女⑫
「本当に私でよろしいのですか?」
「当たり前じゃないですか!貴方でなければ駄目なんです、それに貴方にもうひとつお願いがあります」
「今度の発表会のテーマは「中世の宴」です、そのイメージどおりに行いたい、だから来られるお客様方にも正装でお越しください、と伝えています、18世紀の貴族の舞踏会に迷い込んでしまったかのように思わせるのが狙いです」
「ですから、僕達も当時の姿で登場するのです、オスカル貴方なら素晴らしく美しい貴婦人になる」
「そして、出来ればその場を僕達の婚約式としたい、」
ジョゼフのいきなりの言葉にオスカルは
「待ってください、ジョゼフまだ私達は知り合って間もない、婚約などは早すぎる・・・貴方だって私のような年上が嫌になる可能性だってあるのですよ」
「僕の気持ちはもうとうに決まっています、嫌になるとしたらオスカル貴方のほうだ、だけど強制はしません、僕の婚約指輪を受け取る受け取らないは貴方の意志に任せます」
「だけど・・・オスカル貴方を愛しています、この気持ちは真実だ、僕の気持ちを受け入れてほしい、そして愛しているといってほしいのです」
何てジョゼフはまっすぐに私に向かってくるのだろう、それに比べて私はアンドレのことを引きずったままだ。
彼が私を望むのなら、共に人生を歩んでいこう、と思っていたが、こんなにまで真剣に考えてくれているジョゼフに中途半端な気持ちで婚約してしまって本当に良いのか?
そして、発表会の日が訪れてしまった。
アンドレは複雑な思いでエメと共にアーベル家の会場に向かった。
中は本当に貴族時代の舞踏会さながらの装いだった。
新商品の高級家具やアートは自然に飾っており、まるでそこにあるのが当たり前のように見える飾り方だ。
ジョゼフの試みは高級感のある家具がいかにおしゃれで満足できるものか、それを身近に置くことで高貴な身分になったような気分を味わえることを実演したのだ。
ウエイターやメイドも全て当時の衣装を着て、客も何人か、今日の趣向を理解して18世紀のファッションで訪れた客もいるくらいだった。
「アンドレ、一応私と貴方はパートナーだけど、私は取材のために中に入ったら貴方と離れるわよ」
「ああ、わかった」
エメは俺を一人おいて取材のため、人々の輪の中に入っていった。
アンドレは一人シャンパンを飲んでいた。
オスカルはまだ現れない、ジョゼフもまだだ。
考えてみれば、オスカルと出会ったときもこんな舞踏会だった。
彼女は俺に向かって走ってきたんだ。
「アンドレ アンドレ ようやく会えた」
そういって俺に抱きついてきたんだ
「俺を知っているんですか?」と聞けば
「何を言ってるのだアンドレ、わからないのか私だオスカルだ!」と返してきた。
あれが俺とオスカル・フランソワとの出会いだった。
それからお前はメイドさんから呼ばれて俺の腕をつかんで「やばいアンドレ逃げるぞ」といって庭を駆け抜けて公園まで走った。
そして、そこでいきなりお前に愛の告白をされて口づけまでされたんだった。
大胆な女性なんだな、と思ったらとんでもない。
前世の俺と再び会える日をひたすら待ち続け、そのために並み居る求婚者を袖にするほど一途なやつだった。
付き合ってみたら会話に色気は皆無で男同士みたいだし、デートというのにパンツルックばかり。
なのに前世の恋人アンドレをずっと想い続けている純情ぶり
俺に女性として意識してもらおうと花柄のワンピースを着てきたときには本気でびっくりした。
本人も着てみたものの自信が無くて、しばらく悩んだ末ようやく俺に声をかけたらしい。
紅い顔をして突っ立ってた彼女、あんまり可愛くて抱きしめたくなったくらいだ!
彼女の眼と同じ色だとサファイアのネックレスをプレゼントしたとき泣いて喜んでくれたっけ。
そして紅い派手なドレスまで着て舞踏会に現れて俺への愛情を証明してくれた。
何でこんなに・・・彼女との思い出は鮮烈で印象深いものばかりなんだ!
俺にとって彼女は何でこんなに大きな存在なんだ!
いつの間にこんなに愛してしまったんだろう・・・
誰よりも美しく、誰よりも魅力的な、俺のオスカル・フランソワ・・・