ショコラの誘惑⑨
アンドレは、今日告白する予定は無かったから、その後のことまで考えていなかった。
オスカルもアンドレの気持ちを聞いてから彼の顔がまともに見られない。
だから観覧車での告白の後、二人はろくに言葉を交わさずにいた。
オスカルは「今日はありがとう」といって車から降りようとしたとき、アンドレはオスカルの腕を取り
「また会ってくれる?」と聞いた。
オスカルはどう答えて良いかわからずしばし沈黙したのでアンドレは
「俺の気持ちへの返事は君の気持ちが決まってからでいい・・・」
「いつまでも待ってるよ、・・だから、また会ってほしい・・オスカル」
オスカルはためらいながらもアンドレの言葉にうなずいた。
アンドレの真剣な顔に見つめられるといやとはいえない・・だって彼は初めて私にときめきをくれた。・・・それに・・私もまた彼に会いたいのだ・・
オスカルは屋敷に戻りそして自分の部屋に入った、そのままベッドの上に座り込み深いため息を吐いて今日の出来事を思い返した。
ドライブに行って遊園地に行ってとっても楽しかった。
けど最後に観覧車に乗りアンドレに告白されてしまった。
こんなことって信じられない!
小説を読んで恋をした、と言った。
そしてスクリーンの中の私を見てさらに恋したという。
そして・・・現実の私を見て・・・運命を感じたとも・・言った。
こんな恋など有り得ない!
そう思うのは、彼があまりにもステキだからだ。
彼に見つめられると胸が熱くなる
彼なら、こんな小説の中の人物や映画の中の主人公に恋しなくとも彼に夢中になってくれる女性は沢山いるはずだ。
それなのに、何で私なんかに・・・?
映画の監督だって私には女性としての色気が足りないって嘆いているのに。・・
からかっているのかと思ったが、彼の真剣な眼差しを見ていると信じたくなる。
しかも、また会う約束をしてしまった。
あの黒い瞳で見つめ願われると断れなくなってしまうのだ。
それに・・・彼は、私の思い描いていたアンドレに似ている・・・
次の約束の場所をオスカルは指定された、いつものカフェではなく公園でとメールで連絡が来た。
待ち合わせ場所が違うといってもカフェからそんなに離れていない公園だ、何でまた?と思いながらオスカルは出かけた。
いつもどおりアンドレは先に来ていた。
私に気がついて彼は「やあ」と片手を上げた。
考えてみれば彼はいつも私より先に来てくれている、それはもしかして私に早く会いたいからだったの?
それに気がつくといつも彼は私をじっとみつめていた、あれも私を好きだから・・・?
アンドレと会うのは先日告白されたところだから、なんだか緊張する。
「今日は何処へ行くのだ?」
オスカルは出来るだけ冷静に言った。
「今日は俺の下宿してるところに連れて行こうと思って、一人暮らしに憧れてるって言ってただろう」
そして二人はアンドレの住んでいる下宿先に連れ立っていった。
アンドレの下宿先は元は大きなお屋敷だったのだろう、それを改造して下宿屋に再建したのだ。
オスカルはそれを見て「なかなか立派な住まいだな、お前こんなところに一人で住んでいるのか?」
「まさか!俺のほかにも学生が数人住んでいるよ、先日紹介したベルナールやアランも一緒だ、学生寮みたいなものだ」
アンドレは説明しながらオスカルを2階の自分の部屋に案内した。
部屋の中は狭いがなかなか片付いていた。
「狭いが腰掛けてくれ、イスは一応二つあるから」といってイスを差し出してくれた。
オスカルが腰掛けると、アンドレは「ちょっと待っていてくれ」といって部屋を出て行った。
アンドレがいなくなった後オスカルは部屋の中をざっと眺めてみた。
やはり学生だから本棚に本が一杯並んでいる。
その、本棚で目立つ場所に「マドモアゼルオスカル」の小説本が置いてあった。
何度も読み返した後がある、彼は本当に小説の中の彼女に惹かれたのだな、本の中の主人公に恋するとはどんな気持ちなのだろう絶対に叶わない相手に恋するなど彼はまるでオスカルの恋人のアンドレそのものではないか。
小説の中のアンドレも、お前も不器用なのだな、世の中には一杯女性がいるではないか、それなのに絶対叶わない相手に恋するなど、本当に不器用だよ。・・・
オスカルがそんなことを考えているとアンドレが戻ってきた。
「お待たせ、飲み物を持ってきたんだ」
アンドレはお盆に二つカップを載せて運んできた。
オスカルが座っている前のテーブルにカップを載せたら、それはショコラだった。
「ショコラではないか、お前が作ったのか?」
「そうさ、お前はいつもショコラを注文するだろう?俺は以前コーヒーショップで働いていたこともあってショコラもメニューにあったんだ」
「美味しいショコラは粉の状態で煎るんだ、そして少量のミルクを入れて泡だて器でよくかき混ぜるのが美味しくなるコツだ」
オスカルは一口飲んで「美味しい!アンドレお前良いマスターになれるぞ」といったらアンドレは
「気に入ったなら良かった、お前のために入れたかったんだ」
「出来れば毎日入れてやりたいな・・」アンドレの言葉を聞いてオスカルは、胸がきゅんとした。
そういえば、以前アンドレはショコラのこの味が恋の味だといったな、甘くて苦いこの味が、これが恋の味なのか?
「オスカル今度俺のアルバイト先に来てくれ、お前に俺の歌を聞かせると約束しただろう」
「ああ、そうだったな、行ってもいいのか?」
「聞いてほしいんだ、俺の歌を、お前に」