ショコラのクリスマス⑩
おかしいな?いつもアンドレのほうが早めにくるのに私より遅いのは初めてだ。
とオスカルが不思議に思っていたら、アンドレが急ぎ足でカフェに入ってきた。
「悪い、セラヴィに寄ってからきたんで少し遅れてしまった」
「セラヴィに寄ったって?今日はセラヴィは休みではないのか?」
「そうさ、だから今日一日店を貸してくれるってオーナーから了解を得ておいたんだ、ネルの口利きでね」
オスカルは訳がわからなかったがそういってアンドレは早く早くとせかすのでオスカルはショコラを飲みさしでカフェを出ることになってしまった。
そのまま、二人は「セラヴィ」に向かった。
休日の札がかけてあり、鍵もしまっているが、アンドレは預かっておいた鍵で店の扉を開けた。
店の中は誰もいなくてがらんとして、誰もいない店はいつもの景色と違って見える。
けれど店の奥にあるグランドピアノだけはいつもと同じだ。
そこにアンドレはオスカルを連れて行った。
ピアノの椅子の横にもうひとつ椅子が置かれてあった。
アンドレはオスカルに、「ここに座って」と座らせて、自分もいつものピアノの椅子に座った。
「いつもはセラヴィに来る客のためにピアノを弾くが、今日はお前だけのためだ」
「私のため?それは・・・とても贅沢だな」
オスカルは思わぬ言葉に胸が弾んだ。
「出来ればお前の誕生日にしてやりたかったが、さすがに無理だから、こうして一日後になってしまった」
オスカルはアンドレのサプライズに感動してしまった、まさか店を借り切って私のためのミニコンサートを開いてくれるとは。
彼はなんて優しいのだろう。・・・
そしてアンドレはピアノを奏で出した。
しかし、それはまるで聴いた事の無い曲、単に私が知らない曲かもしれないな、と思ってオスカルは熱心に聴き入った。
出会いは街の映画館
エンディングで泣いてしまった僕を君は慰めてくれたんだ
蒼い瞳に黄金の髪 僕は一目でわかってしまった。
君に運命の恋をしてしまうことを
だけど君は僕には 手の届かない人だったから
身の程知らずな恋に 僕は夢中になって君を誘惑した
離れ離れになった期間が余計に恋心を募らせ、
死にそうなくらい落ち込んだが、今度は彼女に誘惑された
これは奇跡!
そして今眼の前にいる彼女を見て僕は 真実の愛を手に入れたと確信したんだ!
一見クールで冷めて見える彼女だけど 実はシャイで純情でロマンチスト
しかも意外と甘党でショコラとスイーツが好きな彼女は
ショコラの香りのする僕の恋人
聴いていると「この歌詞は!」と気づきだした。
これってもしかして・・・?
まさか、まさかと思うものの、歌い終わってピアノを弾き終えたアンドレにオスカルは恐る恐る聞いてみた。
「あ、あのアンドレこの歌って・・」
「これは、お前のことを思いながら作ったんだ」とアンドレはにっこり笑って答えた
「お前に捧げるラブソングだ、タイトルはお前の好きなショコラにちなんで「ショコラの恋人」」
「オスカルお前の歌だよ」
そしてアンドレの見せてくれた楽譜には「我が愛するオスカル・フランソワへ」と書いてあった。
アンドレはオスカルの両手を握りしめ、訴えかけてきた。
「オスカル愛している、俺のラブソングは全てお前を想いながら歌うんだ、、お前がいなければラブソングなど歌えない」
「お前が側にいてくれるから歌えるんだ、だから俺の側にいて、俺を歌わせて、そして俺を愛してほしい」
彼は・・・何故こんなに私を愛してくれるのだろう・・・
こんなに素敵で優しくて、心をときめかしてくれる人は他にはいない
彼が好き 彼でなければ嫌 彼を私のものにしたい そして そして・・・
「アンドレお前覚悟しろ、私をこんな気持ちにさせて、この先何があっても後悔するなよ!」
「アンドレ、お前は私のものだ!」
オスカルの勇ましい愛の言葉にアンドレは笑ってしまった。
そしてアンドレも
「望むところだ、受けて経つよ」
「そしてオスカルお前は俺のものだ!」と答えた。
そして二人は見つめあい、どちらとも無く唇を重ね合わせていた。・・
唇が離れた後アンドレはオスカルに言った。
「オスカル俺はプロになる、そして人々に感動を与える歌手になるよ」
「そして、いつかお前を迎えに行く」
「お前をあのお屋敷から連れ出しに行く日まで、それまで、待っていてほしい」
真実を語る彼の黒い瞳、この瞳を見れば彼の言葉に嘘偽りが無いことがはっきりとわかる。
「待っている、・・・お前が迎えにくるまで・・・だから、一刻も早く、私を迎えに来て」
「一刻も早くお前を迎えに行くよ・・・そして、結婚式を挙げて二人で暮らそう」
アンドレの言葉にオスカルは甘い夢を見た。
アンドレ、私達の暮らす家は郊外に建てよう、そしたら静かに暮らせる
家の中には大きなグランドピアノがでんと構えている
お前はピアノを奏で、私はいつもその横でお前の歌とピアノを聴いている
お茶の時間に私は白いケーキを焼く
だけどお茶の準備だけはお前の役目・・・
だって毎日のショコラはお前が入れてくれるのだろうアンドレ・・・
アンドレが席を立ちオスカルに声をかけた
「では、休憩してお茶にしよう、ショコラを入れてやるよ」
二人でショコラを、これがいつもの私達二人の日課。・・・
the end
