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マイリトルレディ 

森の中にあるこの屋敷に訪れたのは、この屋敷の主人であるアルフォンス・ジュベルがもう当に亡くなった後だった。

ジュベル氏は本来パリでも屈指の資産家で、このような寂しい場所で住むような人ではなかった。

血気盛んなときは、パリ社交界でその名前を聞かない日は無いほどの有名人であった。

その彼が何故こんな田舎町に住むようになったかというと、彼の一人息子が亡くなってしまったのがきっかけだった。

彼の息子、レナードは家族でバカンスに出かけた先で車の追突事故にあってしまい、レナードとその妻セーラは死んだ。

奇跡的に一命を取り留めたのが一人娘のフランシスだった。

だが、フランシスは大怪我を負い、長期療養が必要な体となった。

病院での治療を終えた後も、静かに暮らす必要があり、ジュベル氏は残された家族のフランシスを自分の持つ別荘であるこの屋敷に移し、自らもここで余生を過ごしたのだ。

ジュベル氏の奥方はとうに亡くなっており、孫と二人の暮らしだったという。

俺は亡くなったレナードの奥さんのセーラとは遠縁にあたる関係だった。

セーラや俺の一族はジュベル家とは違い、資産といえるものは全く無い家だった。

しかし、セーラはレナードに見初められ、シンデレラのごとく一夜にして大金持ちの奥方に上り詰めたのだ。

だが、運命は皮肉なもので、たった20代でこの世を去る結果になってしまった。

だから、ジュベル氏と顔を合わせたのはレナードとセーラの結婚式と葬式という実に両極端な記念日だった。

たったその2回顔を合わせただけなのに、弁護士を通じて本日呼び出しを受けた。

俺はセーラ側の遠縁なのでジュベル氏の葬式には弔電を送っただけで、参列はしなかった。

それくらいの関係なのに何故?


ジュベルの屋敷はこのような森にあるとは思えないくらいでかい屋敷だった。

呼び鈴をならすと「お待ちください」とインターホンから声がした。

しばらくして出てきた人は、ここのメイドさんだろうか、年配の女性。

その人は少しいぶかしげな顔で俺を見て、「どうぞ、お入りください」と声をかけた。

中に入ると、見事な庭園だ。

公園を散歩しているような気分になる。

ジュベル氏と孫娘のためだけに作られた庭園、金持ちの特権だ。

しかし、傷ついた子供と老人が心癒す場所となりえたのだろうか?それを想像すると痛ましくもある。

屋敷の中は昔の貴族の家のようなつくりだ。

豪華なシャンデリアに見事な彫像 広い階段 細工を施した数々の家具、どれを見ても贅沢な景色だ。

メイドに案内された先は2階にあがった先の客間だった。

そこには俺を電話で呼びだした弁護士が既に到着していた。

彼の名前はロベスピエール、ジュベル氏のお抱え弁護士だったらしい。

彼は俺が入ってきたのに気がつき、座っていたソファーから立ち上がり

「アンドレ・グランディエさん、ようこそ、よくいらしてくれました」

「失礼しますロベスピエールさん、お話を伺いに来ました、ジュベル氏の遺言で俺に関係したことがあるとか?」

「そうです、アンドレ、そう呼ばせていただいてよろしいですか?私のほうもマクシミリアンと呼んでください」

「ではマクシミリアン、早速お話を聞かせてください」

「わかりました、ジュベル氏の遺言は貴方の人生を変えるかもしれない重大なことです」

マクシミリアンの言葉に脅されたような気がして一瞬恐怖さえ感じた。

「話は長くなりますから、心して聞いてください」

「ジュベル氏は亡くなる前、自分がもうすぐ死ぬことを予期していました。」

「ジュベル氏が死ねば、その遺産は孫のフランシス・ジュベルのものです」

「しかし、フランシスは、まだ10歳の子供、ですから後見人が必要です」

「フランシスには両親がいない、だから一緒に暮らして面倒を見てくれることも後見人の条件になります」

「ジュベル氏には子供はレナード一人でしたし、ジュベル氏は親戚が少なくて、しかもフランシスの体にはここの気候があっている、だから出来るだけ身軽な生活をしている人が好ましかったようです」

「何人かの候補者を見て、氏は誰を後見人にするかの判断を孫のフランシス自身に選ばせたのです」

「そしてフランシスの選んだ後見人が貴方なのです!アンドレ!」

「何ですって!」

「驚くのも無理は無い!しかし氏はフランシス自身が決めたのだから貴方にお願いする、と私に語り、その後直接あなたにお願いする手はずでしたが、ジュベル氏の様態が急変し、そのままお亡くなりになり、お伝えするのが今になってしまったのです」

「アンドレ、貴方は小学生向きの童話作家でしたよね、フランシスは貴方の作品の大ファンでして、貴方以外はいやだと申されています」

「待ってください!俺は独身だし、男の俺に10歳の子供との暮らしは無理です!しかもジュベル氏とは2回あっただけの関係で!」


「それは大丈夫だ、私は自分のことは自分で出来る、ばあやもいてくれるしな」

いつの間にか、ドアの側に子供が立っていた。

発言したのは何とその子だ。

金髪で蒼い瞳 かなり美形の容姿をしている、けれど子供にしてはやけに威厳をかね添えている。

「君は?」

「ああ、こちらが今のお話の本人であるフランシス・ジュベルです」

これが・・・フランシス。

「どうでしょう、アンドレ、ジュベル氏は貴方にフランシスが成人するまでの間、ここで一緒に暮らしてほしいと希望されました、その代わりといっては何ですが、その間の生活費だけでなく、遺産の一部もお渡しする所存です」

マクシミリアンが見せた書類には彼が言った言葉が明記されていた、しかもその遺産の一部の金額は自分が一生働いても稼げるだろうか?という金額だったのだ。

「アンドレ、もしよければ試しに数日でも一緒に暮らしてみては?ここは静かだし、空気も綺麗で良い環境ですよ、貴方の執筆活動には最適な場所だと思えるんですが」

実はそうだ、俺の住んでいるアパルトマンは実に騒がしい。

童話作家などと聞こえはいいが、そんなに売れるものではない、つましい暮らしで、生計を立てているのが真実だ。

無茶な話ではあるが、ジュベル氏の遺言は実に魅力的ではある。

「私との生活は不満か?何故だ?」フランシスが口を挟む。

「フランシス殿、アンドレにも都合というものがあるのですよ、」

「そうか、では仕方ない、しかしアンドレここはすぐに気に入るぞ、わたしが屋敷を案内してやる」

そういったかと思うとフランシスはアンドレの手を引っ張り部屋の外へ連れ出した。

歩きながらアンドレは質問した。

「フランシス!君は俺の事を知らないんだろう?」

「いや、知っている、お前の本は全部読んだ、それに作者として映ってる写真もいくつも見た」

「それだけなら知ってるとはいえない、君のおじいさんは知らない男と暮らすのを承知したのか?」

「おじい様を悪く言うな!おじい様は私の判断を信じたのだ!それにお前はお母様の血を引いている、そのお前と暮らしたいと私が願ったのだ」

その言葉を聞くと返す言葉が見つからなかった。

両親を亡くし、祖父までも亡くし、独りぼっちになったこの子には母親の血縁者であることに惹かれ、しかも自分の愛読書の作家ともなればよけいだ。

フランシスは屋敷の中をくまなく案内した。

確かにここは作品を書くのに最適な環境だった。

時代を思わせまるで中世の城にも見えるこの屋敷のたたずまい、美しい庭、部屋の一つ一つは広くて、俺のアパルトマンの中よりこの屋敷の一部屋のほうが広い。

おまけに図書室まであった、そこには俺の書いた児童文庫も数多くあった。

「本当に読んでくれてたんだな」

「当たり前だ、私は嘘はつかん、ほら、このシリーズがお気に入りなんだ」

フランシスが見せてくれた俺の本は「オスカルとアンドレの冒険」だった。

「これは・・・」

俺もこれが一番のお気に入りだ、オスカルは女ながらに軍隊に所属する伯爵令嬢だ、そして従僕のアンドレがいつも彼女の補佐をする。

時は18世紀、宮廷内での事件を彼ら二人が次々に解決する物語だ。

これは始めて売り上げ部数が伸びてシリーズ化までされた作品だ。

特に思い入れがあるのはそれだけの理由ではないが・・・

「私はここで長いことおじい様とばあやのマロンとで暮らしていた、マロンとは先ほどお前を案内したメイドのことだ」

「ああ、あのおばさん」

「そうだ、ばあやは私が生まれる前からおじい様に仕えてくれていた、お前が私と暮らすのを拒否するなら私は形だけの後見人を立ててばあやとここで暮らす」

「何故だ?他にも親戚はいるだろう、遺産を俺なんかに分配するくらいなら、より近い親戚のほうを選ぶものだろう?」

「私は・・・他に子供がいる家庭では暮らしたくなかった・・・」

それを聞いたとき、俺はひどく残酷なことを言ってしまった気がした、どんなに愛情を注いでくれても自分の子のほうが大事に決まってる。

どうやらこの子は頭の良い子のようだ、そのため、自分の置かれた状況を冷静に分析した結果、こんな独身男のほうが気楽に暮らせると踏んだのだろう。

俺達はいろいろ話をしてみた。

この子は10歳とは思えないほど会話の相手としては最適なのが驚きだった。

フランシスからは、ここでの暮らしのこと。

事故にあってから、2年ほどは寝たきりであった生活で、その間の楽しみといえば、本を読むこと。

その流れで今でも読書家だそうだ、年齢相応の児童文学も読むが、歴史小説やミステリー小説、文学や雑学も読むという。

運動のため、乗馬もするという、庭には馬小屋がある

体のほうは、ほぼ完全に治っているが、小児喘息の気があり、ここでの暮らしはまだ当分必要のようだ。

学校には行っておらず、家庭教師が毎日訪れる、それで勉強しているという。

俺の方はというと。

父親は早くに亡くなり、母一人で俺を育ててくれた、しかし大学に入学したくらいに母は病気で亡くなり、天涯孤独の身の上となった。

将来の夢はこれといって無かったが、ある歴史に隠された人の存在を知って、その人の生涯を描いてみたい、と作家を目指すことにした。

しかし、おいそれと作家になどなれるものではない。

自分の描きたい作品で食える作家などほんの一握りの数だ。

俺は知り合いの出版社で書けるものは何でも書かせてもらって生活していた。

エッセイであったり、解説の文章であったり、たまには雑誌のエロ小説も書いていった。

そして友人のベルナールが出版社を立ち上げ、そこで児童文庫を作るので俺に描いてくれないか、と打診が来た。

俺は例の歴史に隠された人を俺のイメージで描くことにした。

それが、あの「オスカルとアンドレの冒険」だ。

この作品がヒットしたおかげで何とか食えるようになったのをフランシスに伝えていった。

俺の話をフランシスは眼をきらきらさせながら聞き入っていた。

こんな話でもこの子にとっては目新しい興味深い話なのだろう。

俺は何だかこの子にもっといろんなことを教えてやりたい、そんな気持ちになっていった。

家族に恵まれないもの同士だし、フランシスは実に聡明な子供だ。

話も合うし、仲良くやっていけそうな気がしてきた、礼金ももらえることだし。

そこで俺は改めてフランシスに気持ちを聞いてみた。

「フランシス、今でも俺と暮らしたいと思うか?」

「当然だ!アンドレといると実に楽しい!」

「そうか!では俺達男同士上手くやっていけるかもしれないな!」

そこへマクシミリアンが入ってきた。
「そうですか、良かったですねフランシス、アンドレがその気になってくれて、これでジュベル氏も安心しているでしょう」

隣にはマロンもいて「本当にいいんですかね、こんな若い男がお嬢様の後見人だなんて、あたしは心配ですよ」

「お嬢様?」

「そうですよ、アンドレ、フランシスはれっきとした女の子です、レディーとしての教育もよろしく」マクシミリアンは面白そうにそういった。

「では、よろしく頼むアンドレ!」フランシスは手を差し出し俺に握手を求めてきた。

果たしてこの手を取ってよいのか?女の子だなんて聞いていない、俺は男の子だからと気軽に考えたのに。

どうもだまされた感がぬぐえなかったが、いまさらフランシスの笑顔を見るといやとは言えず、差し出された手をつい握ってしまった。

うれしそうなフランシスと事の成り行きを楽しんでいるかのようなマクシミリアンに心配そうなマロンさんに複雑な心境の俺

なんともおかしな出会いだったが

これが俺とリトルレディとの出会いだったんだ。
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うさぎ
Posted byうさぎ

Comments 3

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0402

新しいお話、楽しみです

フランシスの言葉はオスカルそのもの感♪ヒシヒシですね~うんと年上のアンドレ
続き、楽しみにしてまーす!

2016/04/02 (Sat) 13:40

うさぎ

Re: 新しいお話、楽しみです

04様マイリトルレディを楽しみだといってくださってありがとうございます。

でも、まだ続きを書くか悩んでいる物語なんです、すみません(汗)

違和感ないですか?気を使ってませんか?

これが悩んでいる話です。

2016/04/02 (Sat) 23:46

うさぎ

No title

AN様今回のはアンドレかなり年上なんです、こんなので良いのか思案しています。

凝ってる話に思ってもらえたのはうれしいです。

フランシスはもちろんオスカル様です。

もしも違和感あれば遠慮なく言ってくださいね、かなり悩み中です。

2016/04/02 (Sat) 23:50