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うさぎ

愛しの婚約者殿⑧

今日からぶどう園の収穫が始まるという。

朝食のとき、アンドレがロザリーに話しかけていた。

「今日はぶどうの収穫だからぶどう園を手伝いに行くよ、だからロザリー今回も昼飯を頼む」

「ええ、大丈夫よ、お昼には農園の人たち全員の分作って持って行くから」

「農園で働く全員のお昼を作るのか?」

オスカルが不思議そうに聞くのでアンドレがそれに答えてやった。

「ぶどうの収穫は、体力のいる大変な作業だ、それを一日でやってしまうんだ、だから昼飯くらいは作業員にご馳走しようと毎年こちらで作って持っていっている」

そうか、これも働く人達をいたわるこの家の気質なのだな、オスカルは感心してしまった。

「では、いってくるよ、オスカルもよければ収穫の景色を見に来ればいい」

「それは見てみたいな、では私も後から行くよ」

アンドレは朝食がすんだ後すぐにぶどう園に向かっていった。

ロザリーは屋敷の料理人やメイド達と一緒に園で働く人たちのためにお昼ご飯を作る準備を始めた。

忙しそうなのでオスカルもロザリーを手伝おうと思って料理場に入っていった。

オスカルは調理場に入るのは初めてだ、自分の屋敷では料理人やメイドしか入らない場所だった。

しかし、ロザリーは忙しいときは食事の支度を手伝うし、お茶の時間のお菓子も作る。

だからてきぱきと動いていくのだが、オスカルは違う。

皆が忙しそうに動いているのを尻目にそこに突っ立ってしまった。

何をすればいいのだろう?

「ロザリー、私に手伝えることは無いかな?」

「ありがとうございます、では野菜を切るのを手伝っていただけますか?」

オスカルはロザリーからナイフを受け取ったが、手にしたニンジンをどうむいていいのかわからない。

あぶなっかしい手つきでナイフを手にしているオスカルを見てロザリーは「こうして皮をむくんですよ」と教えてやるのだが、どうも上手くむけない。・・・

ロザリーが見かねてたまねぎの皮をむく仕事をくれた。

しかしたまねぎの皮をむく時点で涙が出てとまらなくなり、涙をぬぐうと余計に涙が止まらなくなって見えなくなってしまった。

「では、お皿の準備を手伝ってください」

ロザリーにいわれて、オスカルは渡された数枚の皿をそろそろと指定の場所に運ぼうとしたところ、忙しく働くメイドにぶつかりそうになり、皿の位置を変えたとき手が滑って落ちてガシャーンと音がして皿が割れてしまった。

オスカルは急いで皿を拾い集めようとした。

すると皿の破片が指に刺さり、血が出てきた。

「イタッ」

「オスカル様大丈夫ですか!あちらで手当てしましょう!」

オスカルの指の血を見てロザリーは急いでオスカルを調理場から連れ出した。

そして傷の手当をしながら、「この指で料理の手伝いは無理ですから、休んでいてください」と言われた。

ロザリーが再び調理場へいってしまってから、オスカルは落ち込んでしまった。

私は役立たずだな・・・

私はぶどう畑で働く方法も、料理も出来ない、よくよく考えてみれば私はこのルシェル村を訪れてから何一つ役に立っていない。

日がな一日本を読んだり、剣の練習したり、馬に乗ったりして、のんびりすごしているだけで、食事も身の回りのことも全てこの屋敷の人にお世話になりっぱなしだ。

同じ令嬢でもロザリーなど料理はもちろん縫い物も畑仕事も完璧だ、今まで私は剣や銃の腕前を自慢にしていたがここでは全く意味が無いのだ

仕方なく庭に出てガーデンテーブルを前にいすに腰掛けた。

私は貴族の世界だけでなく、平民の世界でも役立たずなのか・・・

一人落ち込んでいるとおばあ様に見つかってしまった。

おばあ様は心配そうにオスカルに声をかけてきた。

「どうされたんですか、オスカル様?」

「おばあ様・・」

「お顔が沈み込んでいますよ、家族か女中が失礼をしたのでは・・」


おばあ様に心配をかけてしまった、これは私自身のことなのに・・


「いえ、違うんです、私は貴族の娘としても平民の暮らしの中でも役に立たない人間だなって思えて・・」

「オスカル様が役に立たない?・・それはどうして・・・」

「私は男として育てられて、剣の扱いも馬術も教え込まれました、しかし女性らしいことは一切出来ない」

「刺繍をすることもなく、おしゃれには疎く、男性の心をつかむ手管も持っていない、私は貴族の令嬢らしからぬ者」

「それでも伯爵家の跡継ぎになるのだからそんなのは必要ない、それより武芸に励みいざとなれば国を守る強さを見につけるほうが大事だと自負していました」

「けれど、ここに来て、自分がいかに役に立たない人間かを身にしみたのです」

「このお屋敷ではみんな自分の仕事を持っている、召使や女中だけでなく、アンドレは経営の仕事、そしてロザリーは家を取り仕切っている」

「なのに私はそれらのことを何一つ出来ない、これで一人前の人間と考えていた自分が恥ずかしいのです」

マロンは感じ入ってしまった。

この方は貴族に生まれ育ったのに自分の恵まれた環境を当然としない純粋な心を持った方だと。

「オスカル様、これまで貴族のしかも男性として生きてきたのですから、ロザリーと同じことをするのは無理と言うものです」

「しかし、私も誰かのために役に立つ人間でありたいのです」

だがマロンは別の意味でも喜んでいた。

「オスカル様、私はうれしいですよ、アンドレの婚約者として立派にやっていこうと決意してくれたんですね」

どうやらおばあ様はオスカルがアンドレの婚約者としての自覚を持ったのだと勘違いしたらしい。

「いえ、そういうわけでは・・・」

困ったな、そういう意味ではないのだが。

「いいのですよ、新しい人生を歩むのは悩みますものね」

「では・・・少しずつ練習をすることですね、オスカル様できることからやってみませんか?」

「私でも出来ること?」

「そうです、出来ることは意外に目の前にあったりするものなのですよ」


昼近くになり、ロザリーがオスカルを誘いに来た。

「オスカル様、持参する昼食が出来ましたのでぶどう園までご一緒しませんか?」


「あら、おばあ様もいらっしゃったのね」

「もうそんな時間?では一緒に出かけるよ、おばあ様、相談に乗ってくれてありがとうございます」

オスカルは急いで立ち上がりながらおばあ様に礼を述べた。

「いってらっしゃい気をつけてね」


馬車にお昼ごはんを持ち込んでぶどう園に向かった。

いいお天気だから外で食べるのはピクニック気分で楽しそうだ。

おばあ様のおかげで気持ちが晴れた気がする。

私にでも出来ること・・・か。

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うさぎ
Posted byうさぎ

Comments 2

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2016/12/22 (Thu) 16:32

うさぎ

Re: 素直さ

MI様オスカル様はっきりって何も出来ません。(お分かりでしょうけど)

しかも貴族の娘としてだけでなく、平民の間でも自分は失格なのだと始めて知りました。

MI様のおっしゃるように反省することが大事です。

仕事できないのに出来ていると勘違いしてる人、いるいる!

自分のせいじゃなくて、環境が悪い、他の人がこれを言ったから、いや、そうじゃないでしょ!

すごい頭に浮かびましたわ(笑)

しかし、今回少しいいムードなんですよ~♪

2016/12/23 (Fri) 09:42