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アンドレの願い⑦

翌朝はアンドレの旅立ちの日、夕べの約束どおり、オスカルはアンドレの見送りをしなかった。

ジャルジェ家からブルゴーニュは遠い、また再び会えるとしたらいつになるのか。

馬車に荷物も積み終わり、アンドレは一緒に働いてきた使用人達に一人ひとりお別れを言っていった。

「アンドレ、元気でな、お前がいなくなると思うと寂しいよ」

「アンドレ、あんたやっぱり貴族の隠し子だったのね、何となく品があったものね」

中には「本当に行くのかい、マロンさんはどうするんだね、あんたしか頼る身内はいないんだよ」と非難めいたことを言う人もいたが。

そこへマロンが割って入り、「何言ってるんだね、あたしはまだまだ現役だよ、十分働けるよ、一生このジャルジェ家でお世話になるつもりだからね」

「ごめんよ、おばあちゃん」

「お前まであたしを年寄り扱いする気かい!お前が勝手に生きていってくれるならあたしはせいせいするよ!」

「わかった、・・・ありがとうおばあちゃん、俺をここまで育ててくれて感謝している」

「バカだね、たった一人の孫なんだから、・・・当たり前のことをしただけだよ・・・」

そういいながらマロンは「大きくなったね・・・本当に大きくなって・・・ここへ引き取ったときはあんなに小さかったのに・・・」次第にマロンの声は泣き声になっていき、やがて孫を抱きしめて離さない。

アンドレは祖母を抱きしめながら、「おばあちゃんだけは俺の気持ちをわかってくれた・・・だから・・・本当に感謝している」

それに対して祖母は「お前の気持ちは感づいていたよ、だからやってみるがいい!男だものね!」

「ありがとう、おばあちゃん、いつか迎えにくるよ」

「いらぬ心配だよ、あたしは先ほどの言葉通り、一人で十分だから、しっかりおやりよ」

エドモンド男爵が「アンドレ、もうそろそろ出発の時間だ」と言う。

「わかりました・・・」アンドレはオスカルの姿を探していた。

オスカル、やはり見送りに来てはくれないのか・・・

物陰に隠れてひそかに見送ってはいないだろうか、と探してみたが・・・お前はいない・・

やはり、会いたい、ブルゴーニュへ旅立つ前にお前の顔をしっかり見ておきたかった。・・・

そしてジャルジェ家の屋敷を見上げる、もうここは自分の住む家では無いのだ。

オスカルへの気持ちを振り切ってアンドレは馬車に乗り込む。

馬車は御者のムチで走り出していく。

「アンドレ~~~さようなら~~」「元気でやってくのよ」「立派な男爵になってくれよ」

使用人の仲間達がそれぞれの言葉で送り出してくれた。

さらば、俺を育ててくれたジャルジェ家の人達・・・

アンドレの胸にいくつもの懐かしい思い出がよみがえってくる・・・ジャルジェ家での日々の思い出には絶えずオスカルがそこにいた。

そうだ、小さな頃はいつもお前が俺の横にいて、お前のほうが年下なのに、俺を守ってやる!と豪語する生意気なガキだったんだ。

あの頃お前は自分を男だと思っていたから周りの人を守るのが自分の役割だと自負していたんだ。

天使みたいに綺麗でおまけに凛々しいいでたちはその頃から変らない、けどお前は知っているか?その頃から俺にはお前が女の子にしか見えてなかったことを。

アンドレがそんなことを考えている間にも馬車は走っていく、そしてジャルジェ家の近くにある森へと進んでいく。

森に入って馬車がさらに進んだところで、誰かの呼び声が聞こえた!


アンドレ!


誰かが呼んでいる? あれは・・・オスカルの声だ!

アンドレがそう気づいた瞬間、急いで馬車の窓から顔を覗かせた。

後方から馬を走らせて近づいてくるその姿は・・・オスカルだった。

オスカルが馬に乗り、必死で走らせて来た・・・アンドレに会いたいがために・・・

「アンドレー!」

「オスカル!」アンドレは思い切り体を窓から出して、オスカルへと右手を思い切り差し出した。

オスカルはその手を取ろうと必死に馬を駆け出させるのだが、なかなかその手をつかめない・・・

オスカルは泣いていた・・アンドレを求めて。・・・

アンドレはその顔に幼い頃のオスカルを見た。


「泣いちゃ駄目だよ・・・」


幼い頃、俺はオスカルが泣いたとき、いつもそういって慰めていた。・・・

「オスカルが泣くとおばあちゃんに俺がしかられるんだ、そうしたら、もう二人で遊べなくなるぞ」そう言うとオスカルは、急いで涙を拭いた。

そんないじらしくて可愛いオスカル・・・オスカルの泣く顔でさえ、可愛くてたまらない・・・だけど、もっと可愛いのはオスカルの笑顔なんだ!

その笑顔を俺は独り占めしたいといつしか思うようになった。

それを愛だとわかったときは、お前を愛しすぎて引き返すなど出来なくなっていた。・・・

オスカル、お前の側にいてやりたい!・・・だが・・・どうしても出来ないんだ!

「アンドレ!」

オスカルはもう一度叫んで思い切り腕を伸ばした瞬間、二人の手と手が触れ合った。・・・

そのとき、オスカルが言葉を放った・・・

「行かないで・・・・」

蒼いその瞳からは途切れることなく涙が零れ落ちて行く・・・

それを機にオスカルの馬は疲れきったのか次第に失速していった。

少しずつ遠くなるオスカルの姿、離れていく手と手。・・・

「オスカルーーーー!」

アンドレが馬車とともに遠くなっていく・・・

嫌だ、アンドレ!どうして私を置いていく?

ずっと側にいるよ、と約束したじゃないか・・・

アンドレ・・・アンドレ・・・

「アンドレのバカヤローーーー!」オスカルは泣きながら絶叫した!


小さくなっていくオスカルの姿を見つめながら、アンドレは思う。

いとおしいオスカル、泣かないで・・・俺はいつもお前のことを想っているよ・・・

きっとまた会えるのだから・・・そのときは・・・二度と離さない・・・


いつしかアンドレの眼からもオスカルと同じように涙が溢れこぼれては落ちた。・・・

「アンドレ、馬車を止めよう」隣に座っているエドモンド男爵はそういった。

しかしアンドレは「いえ、そのまま走らせてください」

「だが・・・」

「俺は立ち止まるわけにはいかないんです」

オスカルへの想いを振り切ってアンドレは強く決意した。


オスカル、俺の望みはお前と肩を並べて歩くことだと俺は言った。

それはある意味、本当だ!

だが、全てを伝えてはいない!

俺の望みはお前を自分のものにしたいという、とてつもなく大きな願望だ!

オスカル!愛している!この世の何よりも!この世の誰よりも!

お前を得るためなら、なんだって利用する!それが母と俺を捨てた親父であっても!

貫いてみせる・・・  この愛だけは!


君を愛するがゆえに 僕はゆく。・・・

それがどんなに険しく遠い道であろうと

君への想いがある限り この願いをあきらめたりはしない。・・・


     「第一章 君を愛するがゆえに 完」 
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