夢見るロザリー⑮
「今はまだ何とか見えているがいずれ両目とも見えなくなる、いくつもの病院で見てもらったが結果は同じだった」
「俺はもうすぐ盲目になる」
「だから・・・オスカルにはいわないでくれ」
アンドレはオスカル様に言わないよう必死で私に伝えてきました。
「どうしてなの?・・・どうしてオスカル様に言ってはいけないの?」
アンドレの眼が見えなくなる!その事実を知った私はそのままにしてはおけない気持ちでした。
けれど、アンドレの決意は固く、必死で私を説得しようとするのです。
「駄目だ!オスカルには、オスカルにだけは言うな」
「俺が盲目になると知ればオスカルのことだ、あいつは決して俺を見捨てたりなどしない、ずっと側についていて一生俺の面倒を見るだろう」
「だって・・オスカル様と貴方は家族じゃない」
「あいつは俺と赤の他人だ、血の繋がりなど無いんだ!」
「でも・・」
「眼の見えない俺をあいつに縛り付けるわけにはいかないんだよ」
「オスカルなら、あいつならどんな夢も果たせる、それを邪魔するなど俺には絶対に出来ない!」
確かにアンドレの言うとおりオスカル様ならアンドレを見捨てたりはしないでしょう。
あのオスカル様なら。・・
「でも、アンドレオスカル様は貴方を愛しているのよ」
私のこの言葉にアンドレは悲しそうな顔で答えました。
「だからこそ、俺をあきらめて他の男を好きにならなくちゃいけないんだ」
「俺を嫌いになって、他の誰かにあいつを幸せにしてもらう」
アンドレの言葉を聞いて私は気づいたのです、アンドレの変わったわけが
「だから、複数の女性と付き合ったの?わざとオスカル様に嫌われるために?」
「そうだ、そして俺はオスカルの目の前から消える、そうすればいずれオスカルは俺のことなど忘れるだろう」
オスカル様に嫌われた上で、目の前からも消える?アンドレはそこまで考えていたの?
「そんな・・」
「ロザリー、考えてくれ、盲目の俺を一生オスカルに面倒見させるのか?」
「オスカルはいつもみんなの憧れで俺の誇りだった」
「そんなあいつに俺の不幸を背負わせるわけには行かないんだよ」
アンドレの気持ちは理解できます、これまで大事に守ってきたオスカル様を犠牲にしたくは無いという彼の心情は・・・でも
「アンドレ、それでいいの?貴方だけ、こんなに傷ついて」
「どうしてそこまでオスカル様のことを・・・?」
私の問いにアンドレは寂しそうに笑いました。
「俺が初めてオスカルと出逢ったのは、オスカルの父と俺の母との再婚が決まってお互いを紹介されたときだった」
「新しい母と新しい兄になる俺を前に不安そうにしていた女の子、その顔がいじらしくて仲良くしようって声をかけたら、その子は緊張が解けたように俺に笑顔を向けた。」
「その瞬間、俺は生涯かけて守るべき相手を見つけたんだ」
「見た目より正義感が強くていじめっ子がいると相手が年上でも立ち向かっていくから俺はいつも護衛役だ」
「俺のお姫様は、お転婆で気が強くて、お陰で俺はお付きの者で、それなのに俺がいないと探し回り、泣きべそをかくんだ」
「しばらくして俺が戻ってくると、どこへ行ってたんだって泣き顔で怒ってくる。」
「だけど、その後は俺の側を離れようとはしない、俺はそんなオスカルが愛しくてたまらなかった。」
「誰よりも美しくて心優しいあいつは・・オスカルは、俺のかけがえのない宝だ」
「そのオスカルを、俺自身が不幸にするわけにいかない」
「だから・・・オスカルには言わないでくれ」
「お願いだ、ロザリー、どうかオスカルには言わないでくれ」
オスカル様に言わないでほしいと懸命に願う彼の姿に私は胸を打たれ返す言葉がありません。
自分の不幸よりもオスカル様の幸せを優先させるアンドレ
彼は、どれだけオスカル様を愛せるのか・・
こんなにも、誰かを愛することって出来るのでしょうか?
そして哀しそうな顔で続けました。
「それに・・もしもこのまま、オスカルの側にいたとしても」
「盲目で何もしてやれない、オスカルを見つめてやることも出来ない俺のことなど」
「きっと・・いつか嫌になる」
「だから、このまま何も知らずに別れて行く方が幸せなんだ」
その時アンドレは知っていたのでしょうか?
こんなに辛く哀しい顔をしていることを
私はこんなにも哀しい顔をした人を見たことがありません。
「子供の頃は、良かった・・・」
「オスカルといつまでも一緒にいるって何の疑いも知らずに・・」
「俺はオスカルのもので、オスカルは俺のものだと信じられた」
「いつまでも、あの頃のままでいたかった」
「あのまま時が止まってしまえば良かったのに!」
アンドレの言葉は私の胸を打ち、もう何も言うことはできませんでした。
アンドレの哀しみが伝わってくる
アンドレの苦しみ
アンドレの涙
私はアンドレがうらやましかった。
オスカル様の側に常にいることを許され、いつか結ばれることも出来るアンドレが
けど、私の目の前の彼はあまりにも辛くて哀しくて・・・
その時私に出来たのは彼のために泣くことだけでした。
神様は、意地悪です。
こんな不幸が無ければ、二人は間違いなく結ばれるのに
結ばれて、最高に幸せな二人になれるのに
あまりにも・・残酷すぎます!