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アンドレの願い⑩

その頃、オスカルは衛兵隊に入隊し、隊長として忙しく毎日を送る日々であった。

衛兵隊の兵士達は最初、オスカルが女性であることを忌み嫌い、反抗的な態度を示した。

そのことをオスカルは最初から覚悟の上で志願したのだった。

しかし、毎日の訓練に真面目に取り組むオスカルの姿に彼らは、それまでの隊長との違いを感じていた。

特別待遇である食事も兵士と同じものにして、夜勤にも顔出しして、休みの兵士にこっそり酒を差し入れすることもたびたびあった。

それでも反抗的な兵士相手には、直接剣での戦いを挑み、勝つことで黙らせることも何度か行っていったのである。

オスカルは毎日が激務だったが、近衛隊のときと違ってそれだけのやりがいも感じていた。

少しずつだが、分かってきたのが兵士の彼らは意外と家族思いなやつばかりだということ。

貧しいからこそ、衛兵隊に入隊して、家族を養う、自分とは全く違う動機で軍に身を置く彼らをオスカルは違う意味で尊敬も出来たのだ。

そんな彼らに信頼される上司になりたい、オスカルはそう思い、一人ひとりに何気に声をかけて、話す機会を設けるようにした。

すると、あれほど反抗的な態度の彼らが、驚くほど素直な側面を見せる、貧しい家庭のこと、体の弱い両親のこと、仕事がなくて軍にはいる決心をしたことなど、大貴族であるオスカルに対して吐き出してくる。

オスカルはそれを全て受け止め、「貴族とは恥ずかしいものだな」と寂しそうに呟いた。

どんなに恵まれた環境においてもそれに甘えず、自分達平民に少しでも近づこうとする彼女の存在は彼らにとって驚愕の事実だった。

下級階層の彼らにしてみれば、オスカルのしていることは、金持ちのお嬢様のほんの気まぐれだと高をくくってはいたが、どれだけ自分達が反抗的な態度を示そうと権力を行使する処分はせず、ただその場でひたすら自分ひとりの力で治めようとする彼女のやり方にしだいに惹かれて行くものも少なくは無かった。


アンドレとオスカル、お互いこんな忙しさに追われる日々を送る二人の唯一の楽しみは、お互いの手紙であった。

離れて暮らすようになって、彼らは手紙のやり取りをしていた。

どんなに忙しい暮らしであってもお互いのことは一日も忘れられない大切な存在。

自分達の今おかれている状況や、悩み、葛藤を話せるのはお互いだけ。

「オスカル、今俺はワインになる葡萄園を継ぐ跡取りとして皆と働いているよ。俺がここに来るまでは、カロリーヌという男爵の姪が婿をとって後を継ぐ予定だった。

だが俺が現れたことで他のものは何処の馬の骨ともしれないやつが自分達の主人になるのか、と不安がっていた。

俺は彼らに信頼されるよう日夜努力した、葡萄園の経営哲学を学び、使用人たちとの距離を埋めるため、ともに汗を流して働いてもいる、そしてようやく心を通わすようになれたつもりだ。

これからは、ワインは新種を作っていかねばならない時代だ、土地をもっと耕して増やし、新しい種類の葡萄にも挑戦しなければ、勝ち残れないだろう。

だが俺はやるよ、優秀なワイン職人を新たに雇い、今までに無いワインを作ってここをもっと繁栄させてみせる。

こんなに強い気持ちでいられるのは、オスカルお前がいるからだ。

お前のその気高さと高貴な精神を一番身近に見てきたのは俺だ、そのお前に少しでも近づきたい、といつも感じていたからこそ、今の俺があるんだ、オスカル、会いたい・・・会いたくてたまらない!

お前に再び会えることが今の俺の唯一の生きがいだ」

「アンドレ、手紙を読んでお前がいかに努力して全ての人たちに信頼を得ているのかが、良くわかるよ。

お前は気が付いていないだろうが、お前は人をひきつける何かがある、普段は穏やかで大人しい奴だが、いざとなると頼りになる側にいてくれると安心するそんな存在なんだ。

ほかならぬ私がいうのだから、信用していい、だから、お前は素晴らしい領主になる絶対だ!

アンドレ、私のほうも衛兵隊に入り、最初は反感ばかり買われていたが、最近はそうでもないんだ。
それというのも、なかなか心を開いてくれない兵士達をどうにかできないだろうか、と考えていたら、ふとお前のことを思い出した。

お前は何でも私のいう話をじっくり聞いてくれた、それが何より私にとっての癒しだったことに気が付いたんだ。

思えば私は、お前と違ってぶっきらぼうだから、人と距離を取ってしまう修正があったようだ。
けれど、お前を見習って自分からも他人と寄り添うよう努力してみたんだ。

そうすれば、徐々に心を開いてくれる兵士も出てきた、これはお前のおかげだ、お前がいてくれたからこそ気が付いたんだ。

アンドレ、私もお前に会いたい、こうしてお前からの手紙が届くのがどれだけ楽しみか。」


こうして二人は互いに手紙のやり取りを日々の暮らしの糧としていた。

アンドレは当然愛するオスカルへの想いを胸に。

オスカルのほうは、戸惑っていた、離れてみてこんなにアンドレが自分に必要な人であったとは、彼の顔が見たくてしょうがない、そして抱きしめてほしい、とさえ思う。

何なんだろう、この気持ちは、彼に再び会えばわかるのだろうか?
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Posted byうさぎ

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