夢見るロザリー⑱
「オスカル様、こちらはベルナールです、ベルナールこちらの方がオスカル様よ」
「よろしくベルナールだ」
「こちらこそよろしくオスカルです」
紹介した後でベルナールは思いついたことを口にしました。
「あの、オスカルってもしかしてアンドレの恋人?」
「アンドレを・・知っているのか?」
私は急いで説明をしました。
「ベルナール、オスカル様はアンドレの妹さんなの」
「オスカル様、ベルナールはアンドレと同じパトリック大学の一年生で、友達でもあったの」
「アンドレの・・・友達?」
オスカル様はベルナールがアンドレの友達だと聞き、驚きましたが、ベルナールのほうはオスカル様がアンドレの妹と知り、いきなり気楽になったのか多くを語り始めました。
「そうか、アンドレの妹なのか」
「そういえばロザリーがアンドレの妹と友達だって言ってたけど君のことか!」
「ドイツに留学って聞いたときは驚いたよ、だって何も聞かされてなかったから、」
「大学で知り合って、たくさんの女と付き合うんでどんな女たらしかと思ったが、すごく真面目だし、女とも一度付き合ったらもう二度と会わないって有名だった」
「振られた女も彼は一緒にいても何処かつまらなそうで、なんだか無理にプレーボーイを気取ってるみたいだったって言ってたな」
「それに君達って本当に兄妹?ぜんぜん似てないけど」
「ベルナール、オスカル様とアンドレは血がつながっていないの、だから好きあってもおかしくないのよ」
ついお二人のことを言葉にしてしまいました、だってそれは真実なのだから。
「ロザリー、私達は好きあってなどいない」
「だけど、彼は君が好きだったと思うよ、一緒に飲みにいったとき、悪酔いして何度も「オスカル」て名前を呼んでたから、彼女の名前かと思ってた」
オスカル様はその時、一瞬顔色を変えました。
まさかベルナールの口からこんな話が出てくるとは・・・
アンドレを忘れようとしていたオスカル様の心を辛くさせてしまったのでしょうか・・・
けどその後はいつものとおりのオスカル様でした。
「いい人に出会えて良かったね、ロザリーを大事にしてくれそうな人で安心したよ」
その時オスカル様は笑って祝福してくれました。
久しぶりに見るオスカル様の笑顔にほっと胸をなでおろしたのです。
うれしくて何処か寂しいオスカル様からの祝福の言葉。
きっといつかその言葉に本当の笑顔で答えられる。
次の日の朝早くにオスカル様がうちに尋ねてきました。
まだ学校へ行くには早い時間でしかもオスカル様はスーツケースを持って旅に出るような姿でした。
「ロザリー、こんな朝早くに申し訳ない」
「どうしたんですか?」
「しばらく学校を休むことになる、心配かけぬようロザリーには伝えておこうと思って」
オスカル様がしばらく学校を休む?一体何が?
「一体何があったんですか?」
様子を見る限りではどことなくうれしそうにさえ見えます。
その訳は驚くべきことでした。
「ドイツに行く、アンドレを、迎えに」
「アンドレを?」
「彼、ドイツの病院にいるんだ」
「彼は、私を愛しくれていたんだよ」
「私のことを一杯書き込んだノートを見つけた、アンドレは眼を悪くしていて、私を巻き込まないように秘密にしていたんだ」
「アンドレは、バカだ、たった一人で苦しんで」
泣き声で語るオスカル様の言葉を聴きながら私はオスカル様にとって果たして真実を知ってしまったことが幸せなのかが疑問でした。
オスカル様は何もかもを知ってしまった。
アンドレの心もアンドレの愛も。・・
だけど・・・オスカル様はアンドレの眼がもう完全に見えなくなることを知っているの?
多分、彼はもうオスカル様の顔も見えないはず、その彼に会ってしまって本当に幸せになれるの?、お互い傷つきあうのでは・・・
「オスカル様、アンドレの眼が見えないのを知っていますか?」
私はずっと言いたかった残酷な事実を口にしました。
「もう彼は多分オスカル様を見ることは出来ません」
「それでも変わらぬ愛を誓えますか?」
「ロザリー! 君は何故アンドレの眼のことを知っている?」
いきなりの私の言葉にオスカル様は驚愕しました。
驚くのは無理もありません、まさか私が知っているなど思っても見なかったでしょう。
「すみません、私、アンドレが病院から出てくるのを見てしまい、オスカル様に言わないことを条件に彼から秘密を聞き出したんです」
たとえオスカル様に嫌われても、これだけは聞いておきたかった。
オスカル様、アンドレの愛に答えられるだけの想いが貴方にありますか?
一生眼の見えない彼を愛し続けることが出来ますか?