真実の恋人⑫
彼の胸の中でいきなり別れの言葉を告げられた。
先程までの幸せな気持ちが一気に萎んでしまった。
彼から帰りを告げられる、胸の痛む時間だ。
「もう・・帰るのか?」
「もう遅い、あまり遅い帰宅は屋敷の人たちに心配をかけてしまう」
彼はお世話になってるブランシュ家の人々に気を使ってるのだ。
他人と上手くやっていくにはそれなりの努力は必要、それはわかっているのだ。
わかってはいても胸の痛みは止まらない
そして彼の言う屋敷の人たちにはクリスティーヌも含まれている。
師匠の娘というだけで
一緒に暮らしているというだけで
アンドレは彼女のいる家に帰っていく
あの美しいクリスティーヌの許にお前が戻っていく姿を見るたびに、私は辛くなる
オスカルは何も言わず思いつめた表情でアンドレをじっと見つめていた。
「オスカル・・どうした?」
私はお前の特別になりたい
お前は私のもので私はお前のものだと実感できれば
そしたら、この醜い嫉妬の感情も消えてなくなるのだろうか
オスカルはアンドレの胸に寄り添っていった。
「アンドレ・・今夜は帰らないで」
「私の側にいて」
アンドレは胸に飛び込んできたオスカルの真意を知り驚いた。
まさか、オスカルが。・・
「オスカル・・・」
「それはどういう意味かわかっているのか?」
オスカルはアンドレの胸の中で答えた。
「わかっている、わかっているんだ、けどこうせずにはいられない」
「お前と再会してこうして会えるだけでも満足だった、けど、だんだんと欲深くなっていく私がいる」
「お前が私を愛しているんだって実感させてほしい」
オスカルは思い切って言った。
「私を・・抱いてほしい」
オスカルの告白はあまりにも突然で信じがたいものだった
あの誇り高いオスカルが自らの身を差し出すなど・・
しかし、それほど彼女は追い詰められていたのだ。
アンドレはオスカルを抱きしめていたその腕に力がこもった。
「オスカル愛している」
「だからお前を大事にするつもりだったんだ」
「俺が画家としてもう少し成長できたら」
「画家としての自分に自信が持てるまで、お前をこの胸に抱くのを待つつもりだった」
「けど、お前が望んでくれるなら、もう待たない」
「今夜お前を抱いて眠るよ」
そして見つめあったのを皮切りに二人は口づけをした。
お互いを求め合う気持ちがひとつになり、、それはいつもの口付けよりも激しくそして切なく燃えた。
二人はベッドの上に横たわり抱きしめあい
そしてゆっくりと一枚、また一枚と服を脱がせていく。
初めて見るオスカルの肢体は、白く何にも汚されていない聖域
果たして自分のものにしてもいいのか、戸惑うくらい美しい
しかしもはやこの気持ちは抑えようが無い。
最初身を硬くしていた彼女だけれど、肌が触れ合うたびに緊張がほどけていった
その表情もしだいに安らかになっていき、幸せそうにさえ見えた。
それは彼女が俺を愛しているという証拠
あの氷の姫だった彼女が俺のものになっていく
俺達は互いだけが必要で愛し合える存在なのだ
愛している お前だけを・・・
彼に抱かれると決意したもののいざとなると怖いと思う私がいた。
けど、彼と肌が振れあった瞬間不思議なくらいその気持ちが消え去ってしまった。
彼に直接の肌で抱きしめられたとき、こんなに安心できる場所があったのかと思えるほど安らかになった。
このまま、彼の腕の中で守られ抱きしめられていられれば、どれだけ幸せかと思えるくらい。
こんなにも愛する人が目の前にいる、それは究極の喜び
これが恋
これが愛
たったひとつの想い
今夜私はお前のものになる
