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うさぎ

最後の恋人⑮


「アンドレ、入っていいか、コーヒーを持ってきたのだが」

オスカルの声がした。

「ああ、入れよ」

オスカルがトレイにコーヒーを乗せて入ってきた。

そしてアンドレに近寄り、手渡した。

「絵を描いていたのか?」

「そうだ、これはクレメンス時代にやりかけた絵なんだ、いつか続きを描こうと思っていた」

オスカルはキャンパスの絵を眺めた。

木漏れ日の中、二人の子供達がかけっこして遊んでいる景色だ。

子供達は楽しそうに明るく笑っている。

悩みも心配事も無いように、緑の景色の中二人は輝いている。

彼の絵はいつも愛を感じる。

「アンドレ、とてもいい」

「そうか、お前に褒めてもらえてうれしいよ」

「次のコンクールに出すのか?」

「まさか!コンクールに出すにはインパクトが弱い」

俺の絵の売りは暖かく優しいとこだとオスカルも先生も言うが、それだけでいいのか俺は迷っているところだ。

もっと俺にしか出せない世界はないのだろうか。・・

オスカルは絵を見ながらあらためて話しかけてきた。

「こうしてお前が絵を描いて、私とおばあさまが家事をしている、まるで昔みたいだな」

「そうだな、だが、あの時お前とは契約上の恋人だった、だからこんな風に抱きしめることも出来なかったんだ」

アンドレはコーヒーカップを置くとオスカルを抱き寄せた。

「だが、今は違う」

「今は、お前を抱きしめ口付けすることが出来る」

そしてオスカルの顎を指先で捉えて、口付けをした。

いつもと同じ彼からの優しい口付け

だが、次の瞬間、アンドレから思ってもいなかった話を告げられた。

「オスカル」

「俺はもうしばらくしたら先生のところを出て行こうと考えている」

アンドレの意外な言葉にオスカルは驚き顔を上げた。

アンドレは深刻な顔で話を続けた。

「今まで先生の個展のついでに出してもらっていた俺の作品が受賞以降、少しずつだが、買い手がつくようになった」

「コンクール受賞後、画商に5作品を預けたところ、2作品売れて、後は結果待ちだ、もう一軒の画商は買取で商談を進めている」

「俺もそろそろ独り立ちを考えるべき頃だ」

「といっても、もうしばらくは先のことになるがな、先生にまだ早すぎると止められたんだ」

「確かに俺も自分の絵への不安材料がまだまだ残っているのは事実だ、だから先生のところにいる残りの時間に出来るだけ多くのことを学ぼうと思う」

「だからといって、やっていける自信があるわけではないが、ずっと先生のところで世話になるのは心苦しいし、それにおばあちゃんのことも心配だ」

「いつまでも先生の手を借りるわけに行かない、パリで一人でやって行くつもりなんだが、お前はどう思う?」

アンドレがパリに戻る!

オスカルは思わぬ話にショックを受けた。

このアパルトマンで再びおばあさまと生活するのか・・

となると、私と彼とはトゥールーズとパリで遠距離・・?

アンドレがブランシュ氏の屋敷を出るのはいいが、またもや会えなくなってしまう。

で、でも画家として独り立ちすることは彼にとっていいことだ。

それにおばあさまが心配だという彼の気持ちもわかる。

以前のようにわがままをいって彼を困らしてはいかん

ここは、私が大人になるべきなのか・・

「そうか、パリに戻るのか」

「画家として独り立ちするのはいいことだ、おばあさまも安心だろうしな」

オスカルは我慢して平静を装った。

「お前も賛成してくれるか?」

「あ、ああ、お前にとってはいいことだ、私もトゥールーズから応援しているよ」

「トゥールーズ?」

アンドレは首をかしげた。

「会えなくなってしまうのは辛いが、お前の新しい門出だものな、だが、たまには会いに来てほしい、私もお前に会いに行くから」

「お前が一人前の画家になるためだもの、寂しくても我慢するよ」

「オスカル、お前何いってるんだ?」

「何って、私とお前は遠距離恋愛になるんだから、これから覚悟をしておかねば」


アンドレはオスカルが誤解しているのがわかった。

「俺はお前も一緒にって意味でいってるんだが」

「一緒に?」

まだ、意味が飲み込めていないオスカルにアンドレはもう一度はっきりとその旨を伝えた。

「オスカル、お前も俺と一緒にパリに戻って暮らそうって言ってるんだよ!」

そこで初めてオスカルは話を理解した。

では、私もお前と一緒に?

「アンドレ、私も一緒にパリで暮らそうと?」

「そうだよ、だって以前にも言っただろう?このアパルトマンでいっしょに暮らそうって」

そういえば、アンドレが画家を辞めるって言った時、一緒にパリのアパルトマンで暮らそうって言ってたな。

「あの頃と事情が変わっているが、俺の気持ちはあの時のままだ」

「パリに戻るときはお前も一緒に連れて行くってずっと考えていたんだ」

「オスカル、お前も一緒にここで暮らすんだ、いいだろう?」

ここで、暮らす?・・

「私とお前とおばあさまの3人で暮らす?」

「ここは狭いしおばあちゃんと一緒で悪いけど、いずれはもうひとつアパルトマンの部屋を借りてすめるようにするから、すまないが、それまで我慢してくれ」

アンドレとしては、祖母との同居で申し訳なく思う、世間の常識で考えればあまり条件の良くない話だ。

だが、オスカルにとって、それは取るに足らないことであった。

「アンドレ、それは・・とても素敵な提案だな・・」

「そうか、それで我慢してくれるか」アンドレはオスカルの返事を聞いてほっと安堵した。

「我慢どころじゃない、お前とおばあさまと暮らせるなんて私には最高にうれしい提案だ」

「それでは・・一緒に暮らしてくれるのか?」

「当然だ、お前と一緒ならどこにでも行く!」

オスカルの快諾にアンドレは喜びいきなり彼女を高く抱き上げていた。

「お前とずっと暮らせるなんて夢見たいだ」

「私だって同じ気持ちだ」

うれしくてそのまましばらく喜びをかみ締めていた。

けれど、オスカルはひとつ問題に気がついた。

「待てよ、そうなると私は『エクレール』をやめなければいけないのか?」

「当たり前だろ、パリとトゥールーズだぞ」

今頃気がついたオスカルにアンドレはあきれていた。

「そうか、せっかく良い就職先を見つけたと思ってたんだがな」

「『エクレール』にはパリ支店がないからやめるしかないな」

「エリスさんや、ルシアやイレーヌとも別れないといけないんだな」


アンドレは残念そうにいうオスカルを見ると申し訳なく思う。

彼女にとって『エクレール』はようやく見つけた自分にあった働き場所だったのだ。

まだ一人前でもない自分といるよりオスカルにとっては今の環境のほうが良いのだろうか?

しっかりと安定した暮らしを約束してやれない俺では彼女に何もしてやれない。・・

しかし、アンドレの悩みをオスカルが払拭してくれた。

「だが、それは仕方ない!またこちらで新しい就職先を見つければいいことだ!」

「それに、新しい門出には別れはつき物なのだし、いずれまた会えることもあるさ」

オスカルは短い間に頭を切り替えて、考えをまとめたらしい

「オスカル、本当にお前はそれでいいのか?」

「当たり前ではないか!私にはお前と一緒にいるのが何より大事なのだから」

当然だ、とばかりに力強く答えるオスカル

オスカルお前ってやつは。・・さっきまで落ち込んでいたのに

あまりの立ち直りの早さに可笑しくなった。


オスカルはお嬢様育ちなのに、不思議なほど逞しいところがある。

どんな環境でも前向きで力強くて・・

それは、彼女の大きな魅力でもあるんだ。


じっと見られているのを感じ、オスカルが不思議そうに聞いた。

「どうした?」

アンドレはふっと笑って答えた。

「いや・・・やはりお前は最高だって思ったんだよ」

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うさぎ
Posted byうさぎ

Comments 6

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2017/12/09 (Sat) 19:47

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2017/12/10 (Sun) 01:32

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2017/12/10 (Sun) 14:01

うさぎ

Re: No title

AN様こんにちは。

アンドレからのうれしい提案のオスカル様は最初は誤解してショックを受けて、その後ようやくうれしくてはしゃいでます♪

パリで3人で暮らすのが、彼らの幸せだから、うれしいに決まってるのです!

しかし、そうですね、やはり気になるのはお父上の魔の手。・・

でも、まだお二人のパリの休暇は続いてるんですよ、話はゆっくりと進んでいます。

2017/12/10 (Sun) 14:44

うさぎ

Re: 勘違いしたまま気を遣うオスカル様^^

MI様、オスカル様、アンドレのパリに戻るを遠距離恋愛の始まりと勘違いし、何とか大人な態度に徹しました。

まあ、あれだけ聞くと、遠距離になるって勘違いするのも無理は無いです。

アンドレとしては以前に自分の気持ちを伝えたから、当然オスカルも理解してくれてるだろう、これは男性がよくやらかす言葉が足りない例ですね。

エクレールやめなければいけないと聞いてショックを受けるあたりもMI様気に入ってくれたのですね♪

確かに女性は順応性が高いから、それならそれで、何とかなるってところがありますね。

MI様、ルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」見てみました。

ルノワールの最高傑作ですってね、とても華やかな作品ですごい!こんなのがあるんですね!(知りませんでした(汗))

実は、私がアンドレの絵のモデル作品として想像した絵は。

笹倉鉄平「カフェ・ベラノッテ」です。

夕焼けではなく、夜の景色でだいぶ想像が入ってますが。

私、結婚して間もない頃偶然に立ち寄った絵画展で笹倉鉄平氏の作品を眼にして、笹倉氏の優しく暖かいタッチにとても心惹かれてしまいました。



ポスターとかカレンダーしか持ってないのですが、ヤフオクなんかで手に入れようかな、なんて考えたりもしています(照)

平静ありがとうございます、早速直しておきました。







2017/12/10 (Sun) 15:10

うさぎ

Re: 独立するのは素晴らしいけど。。

TMO様、こんにちは。

しっかりもののアンドレらしく、もう独立を考えていました。

アンドレの絵、優しく暖かい作風だから女性に人気は出るのですが、これが芸術だけを見るコンテストとしては、それだけでは物足りないといわれるかも。・・

プロであれば、最高のものを他人が描けないものを描かなければやっていけない、責任感が強い彼らしい考えだと思うのです。

オスカル様の早とちり、可愛いですか!良かった♪

どうも、お二人がこういうやり取りの時はオスカル様がボケ担当でアンドレが突っ込み役になってしまいます。

だっていろいろと動き回るのがオスカル様で、それを補佐するのがアンドレだから、どうしてもこういう構図が似合う。・・

TMO様、平和が長いから余計に不安を煽ってしまったようですね。

今回パリ旅行編をゆるゆると書いていたので、ここまで来るのでも長かったかと思われます。

自分でも、こんなに進まない話とは思わず、書いても書いても話が進まない、いつになれば終わるんだって嘆いています。

いろいろいいましたが、今日は幸せなお二人です。

2017/12/10 (Sun) 15:22