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うさぎ

最後の恋人28

アンドレは苦心の末にコンクールに出展する作品を描きあげ、コンクール事務局に送った。

後は結果を待つだけだ。


同じ頃オスカルは父にあることを願い出ていた。

「お父様、私も会議に同席させていただけませんか?」

この日は父が会社の取締役会議に出席する日だ。

それにオスカルも同行したいと父に願い出た。

「突然どうした?」

「お父様は私に跡目を継ぐよう申されました、ならば今からどのような仕事かをこの眼で見たいと思うのは当然かと」

「そうか、それでは一緒に来るがいい、お前も私の仕事を知る良い機会になるだろう」

オスカルの言葉に父は気を良くし、同行を許した。

父はジャルジェコンツェルンのオーナーでもあり筆頭株主でもある。

だが社長の椅子には座ってはいない、実質的な経営はその分野に長けた能力を持った人物に任せている。

父の仕事は他の取締役らと共に現在の社長の経営内容をチェックすること。

経営に携わるのではなく、優秀な人材を選ぶのが父の仕事だというのだ。


オスカルは父と共に車に乗り込み、パリの本社ビルに入っていった。

父の姿を見るなり社員の一人ひとりが頭を下げる

エレベーターに乗り行き着いた先は最上階にある会議室だ。

もうすでに役員達は集まって席についている。

父は準備された席に付き、オスカルもその隣に席を用意された。

「では取締役員会議を始める」

父の一言で会議は始まった。

今回の議題は現在の社長の経営戦略が計画通りに運んでいるかどうかだ。

皆、手元の資料を見ながらそれぞれの意見を述べる。

どうやら、現在の社長は計画通り利益を上げていないらしく、去年よりも利益が下がっているのだから社長を交代させるという意見が出た。

しかしまだ、決断を下すのは早急だというものもいる。

話が割れた場合、代表取締役の父が決断を下す。

「確かに現在の売り上げは社長が計画で目標とした利益よりも10パーセント少ない、だが、売り上げが伸びる傾向なのも事実だ、だからもう少し様子を見ることにする、ただし1年以内と期限をつけて」

「では、これで今日の会議は終わる」

会議が終わり、すぐに会社を出て車に乗り、父はオスカルに意見を聞いた。

「どうだ、はじめての取締役会議は?」

「厳しいですね、資料によると現在の社長は、社長の椅子に座ってまだ1年もたたないのに、交代の話が出るとは」

「そうだな、だが出た数字で相手の能力を測るのがもっともわかりやすくて正しい」

「好条件で雇ったのだから、その分役に立ってもらわねば意味が無い」

しかしオスカルには父が単にそれだけで会議を開いたとは思えなかった。

「売り上げが上がってきたのは新商品の認知度が高まってきた証拠では?ですからここからが社長の計画通りに売り上げが伸びていく時期に入ってきた、といえるのではないでしょうか」

「それなのに、わざわざ社長解任を議題に挙げるのは、社長反対派へのパフォーマンスですか?」

「何故そう思う?」

父は興味深そうにオスカルの意見を聞いた。

「会議を見て感じたのですが、賛成派と反対派がいれば、どちらも意見を譲るはずなど無い、そこで代表のお父様が決断する、一見意味の無い会議のようですが」

「実はお父様はまだ社長を解任するのをよしとしていない、しかし何もせずにいれば反対派の不満がたまるばかり、とりあえずお互いの意見を聞いたふりをする、結局この会議はガス抜きなのでしょう」

「役員全員に気を配らなくてはいけないから代表取締の役目も大変なのですね」

「なるほど、お前にはそう見えたのか、会議の内容が」

父はオスカルの意見に可も不可もなくだが、満足そうに答えた。


そして、オスカルは会議への同行だけでなく、各地にある会社の視察にも父について回っていった。

それは金融関係であったり建設業であったり医薬品や電気機器や食料品その他いろいろな分野の会社を視察していった。

働いている場所を見学するのは興味深いものだ。

多くの従業員が汗を流して働いている姿を見ると感動してしまう。


オスカルは会社だけでなく、病院や施設にも父について見学していった。


病院にとって多くの寄付金を援助してくれる、父は大事なスポンサーで、見学に伺うと聞けば総動員で歓迎の意を示す。

見学当日の日は病院の院長自らが出迎え、深々と頭を下げて挨拶してきた。

オスカルが見学を申し出たので院内の案内は看護婦長が行った。

看護婦長が「この病院の機材は全てジャルジェ様の寄付でまかなっています」と説明してくれた。

この病院は隣の特別養護施設とつながっている、ここもジャルジェ家が出資して出来たのだ。

ここでは、年老いて身体を悪くした人、または認知症患者が入所している。

看護婦長に案内されて見学していくと、昼食時間だったので、入居者らに食事を食べさせている途中だった。

一人で食事している人もいるが食べさせてもらっている人もいる。

その中の一人の婦人がオスカルを見て、興奮しながら近寄ってきた。

「カトリーヌ!カトリーヌ、お前来てくれたの?」

「私はオスカルという名ですが」

いきなり腕を掴まれてオスカルは困惑した。

「何を言ってるの?貴方はカトリーヌですよ、私の娘の」

看護婦長と介護士らで、急いでその婦人を止めに入った。

「ネルソンさん、この方は娘さんではありませんよ、さあ、お食事の途中ですから戻りましょうね」

何とかネルソンさんを元の席に連れ戻した、それでもカトリーヌと呼び続けている。

「オスカル様申し訳ありません、あちらのほうにどうぞ」

看護婦長がこちらへとオスカルを別室に連れて行った。


「驚きになったでしょう、申し訳ありません」

看護婦長は大変恐縮していた。

「いえ、たいしたことではありません、しかし私はあの方の娘さんに似ているのですか?」

「わかりません、ネルソンさんの娘さんは早くにお亡くなりになっているはずなのです」

「え?では何故?」

カトリーヌという娘さんは亡くなっていた、それなのに何故私を?

「あのように認知症患者の方は、亡くなった人でもまだ生きていると考えたり、知らない方でも身内だと思い込むケースが多いのです」

「楽しかったことや印象に残る記憶は消えないんですね」

「あの方は天涯孤独で、ここが家のようなものです」

「特別養護施設で人生の最後を迎える人は多いのです、ここはあのような方にとって無くてはならない場所ですわ」

この施設を必要とする人がいる、オスカルは看護婦長に言われ、やはり父の言葉に嘘はなかったと思った。

資産家のするべきことはその資産を多くの人に役立てることなのだと痛切に感じた。


また、別の日は孤児院に出かけた。

孤児院にいたっては、園長と先生と孤児の子達みんなで出迎えてくれた。

孤児院も見学した後、父は園長と話があるというので、オスカルは子供達の遊ぶ姿を見ていることにした。

子供達はジャングルジムや木登りして遊んでいる子や部屋の中でお絵かきしたり、おままごとしたり、本を読んでいる子もいた。

その様子を眺めていると、子供達はちらちらとオスカルを見ている。

お絵かきしている子の絵を見て、「上手だね」と褒めてあげた。

するとオスカルをじっと見つめてるものだから「こんにちは」と挨拶すると。

その子はもじもじして一言声に出した。

「お姉ちゃん、きれい」

え、とオスカルが驚くと、近くにいた先生が急いでオスカルに説明した。

「オスカル様があまりにもお綺麗だから見蕩れてしまい、お伝えしたくなったんですわ」

先生の説明にオスカルは女の子ににこやかに答えた。

「そうか光栄だなありがとう」

すると女の子はポケットに手を入れ何かを取り出す。

「これあげる」

自慢げにオスカルに差し出した、それは欠けたビスケットだった。

オスカルはどうしたものかと戸惑っていると、すぐに先生が子供に言い聞かせた。

「おやつの残り物など、オスカル様に失礼よ、こっちに渡しなさい」

どうやら、この子は後で食べるためにおやつのビスケットを残しておいたのだ。

それをオスカルにくれるという。

女の子は悲しそうな顔になっていく。

その顔を見て気づいた。

欠けたビスケットでもこの子には大事なおやつ。

この子は自分に出来る最大のものを私にくれようとしたのだ。


「いえ、ありがたくいただきます」

オスカルは先生を制止し、女の子からビスケットを受け取りそのまま口に入れ食べて見せた。

「うん、美味しいよ、ありがとう」

そういって、女の子を抱きしめてやった。

すると女の子はいきなりのことに驚いた顔になったが。

それでもやがて恥ずかしそうにだが、うれしそうな顔になり、小さな手を恐る恐る差し出して抱きしめ返してきた。


その瞬間感動のあまり、涙が出そうになった。

アンドレ・・・

私も人の役に立つ人間になれるかな?

こんな胸が締め付けられるプレゼントにお返しできる人間になれるだろうか。

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うさぎ
Posted byうさぎ

Comments 11

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2017/12/31 (Sun) 17:10

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2017/12/31 (Sun) 22:46

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2017/12/31 (Sun) 23:01

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2018/01/01 (Mon) 02:01

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2018/01/01 (Mon) 10:13

うさぎ

Re: No title

AN様あけましておめでとうございます。

オスカル様、父上について、父の言ったことが真実なのかどうか確かめて行きました。

そうなんです、父上ただの狸オヤジってわけではなく、父親の役割はぜんぜんですが、国を思う気持ちはあるようです。

孤児院のエピソード、これには力が入りました。

こういうのって、実際にありうるシーンだと思うんです。

子供のくれる宝物って大人にすればたいしたものではない、でもくれようとする、その心をどう受け止めるかが肝心。

優しいオスカル様は、真正面から受け入れることを選びました。

今年もよろしくお願いします、♪

2018/01/01 (Mon) 13:21

うさぎ

Re: 今年1年ありがとうございました

kor様あけましておめでとうございます。

kor様にとって去年は激動の年になったようですね。

いつか、あんなこともあったなって思い出に変わればいいのにと願ってやみません。

私の物語が疲れたときの癒しになっていたなら、最高にうれしいです♪

こちらこそ、そのお言葉が励みになりました。

正直、勝手に書いてはいますが、本当に見に来てくださるかたにとって楽しんでもらえるものなのか?

最初始めたときは、自分だけのたのしみでいい、と考えやっていましたが、やはり長年やっていると欲深くなるようで、いろんな人が楽しみにしてくれている、それを伝えてくれるのが励みになってきました。

ずうずうしい話ですが、私はお金の代わりに心をいただいているのだと感じています。

ですから、kor様の気持ちの安らぎになっていたなら、これほどうれしいことはありません。

物語はそろそろアンドレがオスカル様の態度に不審を感じ始めました。

これは何を意味するところか?

そして今日はアンドレに異変がありました、そうか続きをお楽しみください、今年もよろしくお願いします。

2018/01/01 (Mon) 13:39

うさぎ

Re: No title

M5様あけましておめでとうございます。

M5様にも毎回励まされていました。

「最後の恋人」後半になり、お話が動いていく兆しに入りました。

やはり皆さんアンドレが動くのを懸念していますね、しかしあたりです。

何もせずにじーっとしているなんて物語のヒーローとしては情けない、愛する彼女を求めるのがヒーローの条件です。

M5様にとって今年は良い年になりますように

今年もよろしくお願いします。

2018/01/01 (Mon) 13:44

うさぎ

Re: きっと元々センスはある

MI様あけましておめでとうございます。

ご丁寧なご挨拶ありがとうございます、MI様のご家族も良い年をお過ごしください。

会議や会社病院に施設と孤児院と見て回ったオスカル様。

確かにもっと早く見せておけば、とも思われます。

しかし、そーなるとアンドレと、あれ?どうなるのかな?

ジャルジェ家はオスカル様が手腕を発揮すればいいということですね、それには同意です。

あの方なら、その気になれば十分大丈夫でしょう。

今回アンドレには優しいのですよ、ある理由があるから余計に(汗)

しかし、それは危険もはらんでいます。

それではMI様、こちらこそ今年もよろしくお願いします。





2018/01/01 (Mon) 13:53

うさぎ

Re: あけましておめでとうございます🌅

TMO様あけましておめでとうございます。

いつもいつもお世話になってしまって本当に感謝しています。

そうですね、去年は婚約者シリーズがある程度続いて、その後に恋人シリーズと移り変わりました。(間に夢見るロザリーもありましたが)

婚約者シリーズが楽しく終われたので、次の「偽りの恋人」、これは、あかんかもしれない・・そんな思いがあったので、受け入れられた時は、こういうのでもいいんだ!とびっくりでした。(私は好きなんですよ、この物語、でも現代版で、金持ちの娘と貧乏学生と良くある話、しかもオスカル様鼻持ちなら無いお嬢様で、これは叱られると危惧していたんですよ)

TMO様、すごい頑張って御節作ったのですね、私など最近は手抜きで難しいのはほとんどが買ったものを使用です。

アンドレの予想もわりとあたってるというか・・・

それにオスカル様の行動についても不安なのですね、彼女が跡継ぎとして目覚めたことも。

あの責任感の強さなら、あり得る話ですものね。

この二人に関してはかなりむつかしい・・・

だからこそ、悩みに悩んでいます、どうしたらよいのか、風呂敷が上手くたためるかどうかが、無事回収できればいいのですが。

元旦からTMO様を悩ませ申し訳ありません(笑)

いつも励ましていただいてありがとうございます、TMO様、今年もよろしくお願いします。

2018/01/01 (Mon) 14:07

うさぎ

No title

MA様あけましておめでとうございます。

一番ゲットありがとうございます!

MA様オスカル様の行動がいまいち納得できず、ですか。

でも、もう少し我慢してみていてくれるとうれしいです。

彼女にすれば、アンドレを守る最善の方法だと信じてのことですから。

これからお話は動く回に入りました。

いつも暖かく見守っていただいてありがとうございます。

今年もよろしくお願いします。

2018/01/01 (Mon) 14:12