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うさぎ

最後の恋人42

ジャルジェ夫人が珍しく夫の部屋を訪ね、話をしていた。

「今日もオスカルはあのアンドレという若者の家にモデルを務めに行きましたわ」

「上流社会での付き合いをこなした上でなんだから問題ないだろう」

ジャルジェ氏は妻のいうことを気にする様子は無かった。

しかし、夫人の気は収まらないようで

「貴方一体どうしてあんな約束をなさったんですか?」

「アンドレ・グランディエという青年の将来を考え、オスカルは家に戻ってきた、そして、立派に社交界で活躍するようになったのです」

「社交界で過ごしていれば、いかに家柄や名誉や財産が大事かがわかって、あの子だっていずれは眼を覚ます日が来るのは時間の問題だったんです」

「それなのに、どうしてパリ・エコールを取れば、オスカルとのことを認めるなどという約束をなさったんですか?」

ジャルジェ夫人は夫の考えが理解できなかった、何故彼にこんなチャンスを与えるのかを。

普段の夫からは考えられない行動だ。

妻の不満をそれまでジャルジェ氏は黙って聞いていたが、やがて口を開いた。

「確かに私も時間をかければいずれオスカルにもこの世界の理がわかると思っていた」

「上流社会ではブランド力がある人間こそが尊敬され、敬われる、それが無い人間がどれだけ生きにくい世界か・・」

「ましてやオスカルの相手となると並みの相手では勤まらん」

夫の意見は以前と変わらずオスカルには、特別な相手でなくては、との意見だ。

「それでしたら、何故あのような約束を?」

妻の質問に夫は悩むように答えた。

「しかしオスカルの決意は相当固い、あのままでは変わることは無い様子だ、だから彼のほうからあきらめるきっかけを与えることにした」

「それに・・」

「興味を持ったのさ、あのアンドレという若者に」

「興味?」

ジャルジェ氏が突然雄弁に話し出した。

「あの誰にも関心を持たなかったオスカルが何故、あのように彼に心惹かれるのか?」

「オスカルはアンドレという若者と知り合ってから変わった、自分の意思で動くようになり、興味の無かった社交界で勢力的に活動し、跡継ぎとしての意識を持つようにもなった」

「彼を守るためならいかなる努力も辞さない、オスカルがそれほど惹かれるアンドレとはどんな男かを会って知りたくなった」

「実際会ってみて驚いたよ、彼は私にオスカルとの交際を認めてほしいといって、断られた後、それでは、どうすれば認めてくれるのか教えてほしい、と聞いてきたんだ」

「私相手にそんな無謀な質問をするとは、よほど度胸があるのか頭がいかれてるのかのどっちかだ、だが、返って興味がわいた」

「本当にオスカルがあれほど想い慕うほどの値打ちのある男性なのか、彼の実力が本物かを試してみたくなった」

「パリ・エコールはジャルジェコンツェルンが主催するコンクールだ、これに入賞して一流の芸術家として認められた若者は数知れない」

「しかし、審査員は一流どころを集めていて、それだけに見る眼も肥えてる、これといった作品が出ないときには特選も出さない厳しさだ」

「そして、何より私が審査委員長を務めるのだから、私自身が認める絵でなければ、特選を取るなど到底無理だ」

「それを彼は取ってみせる、と言いおった」

「彼は前回のコンクールに落選している、前のような失敗は許されない、そのプレッシャーの中でどうあがいて見せるのか、どのような絵を見せてくれるのかが私は楽しみなのだ」

「貴方という人は・・全く遊びが過ぎます、後で後悔することにならないよう気をつけるべきなのに」

夫人は話を聞いていくうちに、夫の考えが理解できた。

夫人の呆れ顔を尻目にジャルジェ氏は話を続けた。

「それにもし彼が落選すれば、それでもオスカルは彼を愛し続けられるのか?自分との差を感じずにいられるのか?」

「二人の想いがどれほどのものかを試すいい機会でもある」


「その時、私の求める答えもおのずと出てくるはず」



その日もオスカルはアンドレの部屋を訪れてモデルをしていた。

あれからアンドレは食事を普通に取るようになった。

それでも、また絵に夢中になりすぎて食べるのを忘れることもあるが、祖母やオスカルが指摘すると素直に食事するようにしていた。

しかし、気になるのはあまりに絵に夢中になり、話を聞いてなかったり、自らも話す言葉が少なくなったことだ。

「アンドレ・・・」

呼んでみたがアンドレからの返事が無い。


帰る時間なのだが、アンドレが気づいていないようなので呼んでみたのだ

そこでもう少し大きめな声で呼んだ。

「アンドレ!」

「あ、すまない何か?」

「そろそろ帰る時間なのだが」

もうオスカルのモデルの時間は終わりだ、それにも気がつかずに絵を描き続けていた。

「気がつかずに悪かった、今日はこれまでにしよう。」

アンドレが筆をおいた。

「では、また明日だな」

モデルの姿勢から解放されてほっとしたオスカルだ、しかしアンドレから意外な返事が返ってきた。

「いや・・オスカル明日からお前はもうここに来なくていい」

「え・?だって・・」

「明日からは俺一人で絵を描くよ」

「お前も社交界の付き合いの合間にモデルをやってくれて、疲れただろう、もう俺一人でも平気だ」

突然アンドレからモデルをしなくてもいいと言われた、一体何故?

「だって・・私を描いているのに何故必要ないんだ?」

「心配するな、俺はお前の全てをもう頭に叩き込んでいる」

「明日からの仕上げには俺一人の力でやり遂げたいんだ」

「私もお前と一緒に絵が仕上がるのを見届けたいんだ、それは迷惑なのか?」

オスカルとしては途中で放り出される気持ちだ。

しかし、それでもアンドレの答えは変わらなかった。

「いや・・お前のその気持ちはうれしい」

「しかし、もう絵は仕上げの段階だ、仕上げと聞けば後は楽に思えるかもしれんが、実はこの時に力を抜いてしまったらその絵は台無しになる」

「出来れば一人になって集中して仕上げたい」

「これは、何といっていいのかな、俺なりのけじめのようなものだ」

アンドレにそういわれては反論も出来ない、彼のやりやすいようにするしかないのだ、残念だがあきらめるしかない。

「そうか・・では、わかった、明日からは、ここに来ない」

「悪いな、では、また会えるのは発表の後だな」

さらに驚くべきことを言われた。

「発表の後?それまで会えないのか?」

「絵をコンテスト事務局に送った後は一旦トゥールーズに戻り、荷物の整理をするつもりだ」

「これを機に先生のところを出ようと思う」

「先生には世話になったから、よくお礼を言っておかなくては」

アンドレがブランシュ氏の屋敷を出るのは聞かされていたが、今このタイミングでだなんて、一体彼は何を考えているんだろう?

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うさぎ
Posted byうさぎ

Comments 6

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2018/01/14 (Sun) 16:12

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2018/01/14 (Sun) 21:40

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2018/01/15 (Mon) 10:07

うさぎ

Re: No title

AN様こんにちは。

アンドレにとっては不利な条件でも両親にとっては、最大のチャンスを与えたも同じ、金持ちの嫌味さですね。

そして、アンドレいよいよ師匠のもとから独立です。

何故このタイミングで、ってとこは気になりますが、彼は何か考えるところがあるのでしょう。

今日はオスカル様ボランティアをしようとバイオリンのレッスンです♪

2018/01/15 (Mon) 16:42

うさぎ

Re: 絵もお話も終盤へ…?

MI様、ジャルジェコンツェルンが主催のコンクールですから、かなり世間に影響力があるのです。

今回アンドレ生みの苦しみを散々味わいましたから、その後はもう、つき物が落ちた状態なのです。

そして師匠のもとからも卒業となりました。

オスカル様を守るために彼は大人になろうとしているのです。

2018/01/15 (Mon) 16:46

うさぎ

Re: アンドレに興味を持った氷父。。

TMO様こんにちは。

お話の内容の進め方に同意してくださってうれしいです♪

TMO様、めずらしく会話してるって!一応夫婦だし、いつも喧嘩ばっかりではないんです(笑)

氷母にすれば、ほっとけばいいのに余計なことを、の気持ちです。

やはり男性のほうが遊びと冒険が好きなんですね、チャンスというほどではないけど、彼の実力をともかく見てみたいってことです。

もし落選しても、はオスカル様が再び落選したアンドレを見限らないかをいうためのたとえです。(深い考えは無いかと)

TMO様オスカル様がモデルに関しては言われるまで気が着きませんでした、しかし油絵だから、詳しくはわからないはず。

ともかく今回アンドレは絵の作業で散々悩み苦しみ、画家として一歩成長です。

これだけの苦しみの中でどんな絵が描けたのか?(なんてかっこつけてみましたが、期待は最小限にしてください)

師匠からの独立は、考えてはいましたし、これからやることの準備とでもいいましょうか。

2018/01/15 (Mon) 17:04