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うさぎ

最後の恋人44

パリ・エコールの審査が二日後に迫った日の夜、アンドレから電話があった。

「オスカル、俺だ」

「アンドレ!どうしたんだ?」

久しぶりに聞く彼の声だ、懐かしいとさえ思う。

「パリに戻ったんだが、明日会えないかな?」

「いきなりどうした、会うのはコンテストが終わった後だといってたじゃないか?」

「そういったものの、トゥールーズにいる間お前に会いたくて、こうしてパリに戻れたら我慢できなくなった」

「全くお前は!しょうがないな!」

会いたいといわれたまらなくうれしくなって心が弾んだ。

しかし、残念ながら明日はヴァイオリンを披露する日だ。

「でも、明日は予定があるんだ、それが終わってからならいいのだが・・」

「また、社交界の付き合いか?」

アンドレの声が曇った。

「いいや、介護施設でボランティアする予定なんだ」

「ボランティア?」

「そうだ、施設では入居者らを楽しませようとボランティアを募っていてな、何か特技があれば参加できるというので私も申し込んでみた」

「お前特技なんてあるのか?」

「なめるなよ、上流社会では、幼い頃から音楽を習わせる習慣があるんだ、私の場合ヴァイオリンだ」

「とはいっても最近はとんと弾いていないから自信がなくて、お前がいない間毎日練習して、何とか曲は弾ける程度に上達したぞ」

「お前、意外な特技があったんだな?」

アンドレは関心するように言う。

「それなら夕方にどこかで落ち会おう、俺も部屋の片付けなんかでやることがあるからな」

「では、介護施設の近くに公園があるんだ、そこで待ち合わせしよう」

こうして二人は介護施設のボランティアが終わった後に待ち合わせして会うことした。


そしてコンサート当日レクレーションルームに設置された小さな舞台でオスカルはヴァイオリンを弾いた。

曲目はクライスラーの「愛の喜び」「愛の悲しみ」の2曲。

心を込めて、施設の人たちのために弾く。

あるときは激しく、あるときは緩やかに、この旋律で幸せな気持ちになれますように、と願いながら。

じっと聞き入ってくれる人もいれば、聞いていない人もいる。

でも、そこにいてくれるだけでいい、私の音楽を聴いてくれる、それだけで満足だ。

やがて曲が終わりに近づく、最後に音が消える瞬間まで力を抜かず弓でコントロールして、空気に溶けるように音が消えて・終わった。

オスカルが礼をしたとたん。

客席に座った人も車椅子に乗った人も大きな拍手してくれた。

「カトリーヌ、良かったわよ!」

拍手をしている人の中には以前オスカルをカトリーヌと呼んだネルソンさんもいた。

オスカルはネルソンさんに手をふり答えた。

中には「ブラボー」と声をあげてくれる人もいて、とてもうれしくてたまらない気持ち。

オスカルはヴァイオリンと弓を高く上げ、みんなの声援にこたえた。

こういうのを、喝采っていうのかなあ・・


オスカルはミニコンサートが終わった後施設を出てアンドレとの約束の場所に向かった

しばらく歩いていくと公園の木々が見えて入り口が見えてきた。

そして入り口の側にアンドレが待っていた。

その顔を見るとたまらなく愛しさがあふれ出した。

「アンドレ!」

一声叫んで走って彼の胸に飛び込んだ。

彼は驚いたが急いでしっかり支えてくれた。

「あぶないじゃないか、そのまま転ぶところだぞ」

「だって、うれしかったんだ」

「会いたかった」

そのまま抱きついていった。

「俺もだよ」

二人してしばらく抱きしめあった。

そして公園に入って二人してベンチに座り話をした。

「みんな私のヴァイオリンをとても喜んでくれてな、弾き終わったあと、一杯拍手をくれたんだ」

「私を娘だと勘違いしているネルソンさんなど、娘さんの名前で、私に大きな声で呼びかけるんだ」

「歓声を上げてくれた人もいて、あんな一杯の人が喜んでくれて感激したよ」

オスカルは介護施設での話をアンドレに聞かせていった。

「そうか、お前のヴァイオリンが喜ばれたのか!良かったじゃないか」

「俺もお前がヴァイオリンを奏でる姿が見たかった」

アンドレに望まれオスカルは気を良くした。

「パリ郊外の屋敷で住むようになれば、お前にも聴かせてやるよ」

「それは楽しみだな」

オスカルは最近思いついたことをアンドレに打ち明けてみた。

「アンドレ、考えたんだが、お前さえ良ければパリ郊外の屋敷で絵画教室を開いてはどうだ?」

「絵画教室?俺が絵を教えるのか?」

「そうだ、ジャルジェ家が支援している孤児院の子らは絵を描くのが好きな子が沢山いる、お前は子供の扱いが上手いと見えるから、その子達にも教えてくれればうれしいのだが」

「アトリエの横に教室を作れば丁度いいんじゃないかな?お前の絵は女性や子供に好まれるし」

夢見るように語るオスカルの話を聞いていると、こちらまで楽しい気分になっていく。

「そうだな、子供達に絵を教えて過ごすのも悪くないな、その時はお前がモデルになるのか?」

「いいや、私はお前の専属モデルだからな、私はおばあさまと一緒にお前や子供達にお茶の時間のおやつを作ってやる」

「そして時々お前にヴァイオリンを聴かせてやるんだ」

「では、いっそその姿を描こうかな?」

「絵を描きながらだと集中して聴けないではないか、バックミュージックとはひどい扱いだ」

「昔モデルが退屈しないために演奏家を呼んでたそうだ、お前はモデル兼演奏家だな」


そこまでは久しぶりにアンドレと楽しく会話していたのだが、突然オスカルは真面目な顔になり、気になっていた話を切り出した。

「ところで・・パリ・エコールの作品は完成したのか?」


「ああ、ちゃんと完成して出品したよ、事務局に無事届いてるはずだ」

「そ・そうか、しかし私は完成した作品を眼にしていないから落ち着かないぞ」

言いにくい話題ではあるが、やはり聞いておきたい。

「すまないな、だがコンテストが終わればゆっくり見せることが出来る、それまでのお楽しみだ」

「それよりおめでたい話があるんだ」

いきなりアンドレは話を摩り替えた。

「クリスティーヌの結婚が決まった!」

「クリスティーヌが・結婚?」

さすがにこれにはオスカルも驚いた。

「教会で見初められたらしい、しかも婿入りしてもいいって言うほどクリスティーヌに夢中な相手だ」

「そうか、クリスティーヌが結婚するのか、それはおめでたいことだ」

明るい話題にオスカルの心も和んだ。

「俺がいなくなった後のことが心配だったんだが、クリスティーヌと結婚する男性が婿に入ってくれると聞いてほっとしたよ」

「これで先生も一安心だな」

アンドレにとってブランシュ氏は父親に思えるほどの存在だった、お別れするのは辛かったろう

しかし、それと共にアンドレは大きな後ろ盾を失ってしまった。

ブランシュの屋敷を出た直後にコンテストとは・・

「いよいよ明日か・・」

「もう先生に迷惑がかかることもないんだ・・」

突然のアンドレの独り言にオスカルははっと気づいた。


「お前、もしかして、自分が落選したときのために、ブランシュ氏の屋敷を出たのか?」

「ブランシュ氏の名を出来るだけ傷つけぬため、それで急いでパリに戻ったのか?」

「それは・・」

アンドレは戸惑う顔を見せた、それを見てオスカルは確信した。

「やはり、そうなんだな、もしもまた落選すればブランシュ氏に恥をかかせる、そうならないために早めに屋敷を出たんだな?」

「お前、自分が落選するかもしれないと考えていたのか?」

「それなら、どうして?」


オスカルはアンドレの考えがわからなかった、パリ・エコールを取らなければ自分と別れる約束をしながら、落選を念頭においてブランシュ氏の許を離れるなんて。

絶望的な考えが頭をよぎった。

「お前、私との別れを覚悟しているんじゃないだろうな?」

「自分はパリ・エコールを取れないだろうと考え、私をあきらめてしまったというのか?」

興奮してアンドレに迫っていった、がアンドレは落ち着かせようとしっかりとオスカルの両肩を握った。

「そんなわけないだろう」

オスカルのほうに顔を向けてきっぱりと言い切った。

「俺はパリ・エコールを取るため努力していたのをお前が一番知ってるだろう」


「俺がお前をあきらめるわけないじゃないか」

「オスカル、俺はパリ・エコールを取る、そしてお前を俺のものにしてみせる」

再び強く言い切るアンドレ、それでもオスカルの不安は募っていく。

しかし、絵は送られてしまったのだ、もう賽は投げられた、後戻りは出来ない


アンドレはオスカルの肩を優しく抱いた。

「大丈夫」

「きっと何もかも上手くいくから」

「オスカル・心配するな」

アンドレ・ほんと?本当に?

私はお前を信じていれば大丈夫なのか?

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うさぎ
Posted byうさぎ

Comments 6

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2018/01/16 (Tue) 22:29

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2018/01/17 (Wed) 01:00

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2018/01/17 (Wed) 11:23

うさぎ

Re: No title

AN様こんにちは。

久しぶりに会えた二人は話も弾んでいい感じだったのですが。

やはり心配はアンドレの絵のコンクールのこと。

これからの展開はAN様が納得できるか心配なのですが、どうか心安らかに見守っていただきたいです。

絵に関しては、これくらいで我慢してください(汗)

2018/01/17 (Wed) 17:27

うさぎ

Re: バイオリン演奏と絵画教室

MI様、オスカル様うれしいくせに「全くお前は!しょうがないな」なんて意地張っています(笑)

オスカル様が当主になれば慈善事業に力を入れそうです、そのため、いろいろ考えていくでしょうね。

アンドレ、ブランシュ先生にこれから何があっても迷惑をかけぬよう、距離をとったのです。

優しく男らしい彼の配慮です♪

MI様、アンドレ絵画教室の最初の生徒ですね♪

(お屋敷の中のアトリエの横にある絵画教室をドキドキしながら訪ねていくMI様を想像してしまった)

MI様、絵に興味がある?!絵心ある方に見られるのは恥ずかしいな(汗)

2018/01/17 (Wed) 17:34

うさぎ

Re: 賽は投げられた!

TMO様こんにちは。

アンドレ、師匠に迷惑がかからないよう、大事を取って距離をとることにしました。

おお!そんなアンドレかっこいいですか!そう思ってもらえれば感激です♪

オスカル様、今回はボランティアに参加しました、とりあえず自分が出来ることからやろうとしています。

アンドレの絵画教室もその一環です、絵だって心を和ませるし、二人で一緒にやっていくのが理想♪

クリスティーヌの結婚話もオスカル様内心ほっとしたでしょう(笑)

アンドレをあきらめてくれたのですから。

TMO様、どんな絵でもがっかりなさいませんようにお願いします(汗)

これからクライマックスになっていきますから、これからのお話はTMO様が納得できるかどうか心配ですが。

出来れば心安らかにこれからの成り行きを見つめていただきたいです。

2018/01/17 (Wed) 17:48