夜のフェアリー63
「さっき言ってた旧校舎に行きたいな」
アンドレに聞かれてジョシュアが真っ先に答えた。
「旧校舎?君もサンドラと同じく建物に興味があるのかい?」
笑いながらサンドラが答えた。
「実はこの子、建物というより廃墟を探索するのが好きなの」
「昔から人がすまなくなった無人のお屋敷などを友達と勝手に探索するのが一番お気に入りの遊びなのよ」
あきれるように言うサンドラにジョシュアは熱弁で返した。
「サンドラはわかってないなあ、誰もすまなくなった建物っていうのは、住んでいた人の歴史が刻まれているんだ、残された品を見て、この建物が息づいていた時代を想像するのが最高のロマンなんじゃないか」
その話にアンドレも頷き理解を示した。
「そういえば俺も昔は仲間たちと一緒に森の奥の探検に出たことがあったな」
「誰もいない建物は冒険心がそそられるものだ、男としては、その気持ちはわかるよ」
ジョシュアの知的好奇心を満たすため、旧校舎に行くことを納得し、4人は旧校舎に向かった。
ここはオスカルが一人で過ごしていた時代に良く通った場所だ。
アンドレと親しくなり、以前ほど旧校舎に来ることは少なくなったが、それでも何度も一緒に来たことがある思い出深い場所。
そこへ、アンドレだけでなく、サンドラとも此処に来ることになるとは思わなかった。
旧校舎の入り口には立ち入り禁止の文字と鍵がかかっている。
「旧校舎は、使用されなくなってからは、勝手に入れないよう立ち入り禁止にしている」
「それでも、たまに窓を割って侵入するやつもいるが」
「そうなの、でも外観だけでも歴史を感じる建物だわ」
「あれ、ジョシュアは?」
オスカルが隣にジョシュアがいないことに気がついた。
皆で旧校舎を眺めていて気がつかなかったが、いつの間にかジョシュアの姿が見えない
オスカルもアンドレもあたりを見回すが、いない。
「ジョシュア!何処に行ったの?返事して頂戴!」
サンドラが大声を上げて弟を呼ぶと、小さく返事が聞こえた。
「ここだよ、姉さん」
声のするほうを見ると、旧校舎の中にジョシュアがいた。
良く見ると一枚の窓ガラスが開いている。。
急いでアンドレとオスカルとサンドラの三人は窓の近くにまで来た。
どうやら先日ガラスが割られ、まだそのままになっていた箇所をジョシュアが見つけたのだ。
「ここから入ったのか!」
ジョシュアは割れた場所から腕を伸ばして窓の鍵を開け、中に入っていた。
「ジョシュア、貴方何て事をするの!」
「早く出てくるんだ!」
「ちょっと待ってよ、だってここすごいんだよ」
ジョシュアは眼を輝かせながら中の景色に魅入っている。
彼の言うとおり、さすがは格式のあるオーランドの旧校舎だ。
長年放置されたせいで壁や床は痛んでいるが、それでも残っている家具は細工を施した見事なものばかり。
天井には豪華なシャンデリア
そして一階と二階をつなぐらせん状の階段は手すりに彫刻が彫ってあって今では再現が難しい出来栄えだ。
全てほこりを被り、傷ついてはいるが、当時はため息が出るほどの名品であったのを想像させるに十分だ。
ジョシュアはあちこちを眺め、見蕩れるように階段を登っていく。
「あの子ったら、ああなると、何も耳に入らないのよ」
「連れて来るわ」
サンドラはドレスの裾を持ち上げて窓から中に入った。
床にはガラスの破片があちこちに落ちているのだ、落下してバラバラになったシャンデリアの残骸のかけらも散らばっている。
「サンドラ!危ない」
オスカルも中に入ろうとしたらアンドレが腕を取り止めた。
「お前はここにいろ、俺が行く」
「でも・・」
「俺は二人のことを任されている、お前は巻き込まれただけで関係が無い、今回のことは俺の責任だ」
アンドレに厳しく言い渡され、オスカルは不承不承ながらも納得をした。
アンドレは一人中に入り、オスカルは窓の外で見守った。
ジョシュアはもう階段を上がり二階を探索している。
サンドラはジョシュアを連れ戻そうと、階段の側まで来ていた。
その時頭上高くにあるシャンデリアの、鎖がガラガラと音を立てた。
サンドラが顔を上に向けるとシャンデリアが大きく揺れるのが見えた。
危険を覚えた瞬間には、そのままサンドラめがけ。真っ逆さまにシャンデリアが落下してきた。
「危ない!」
危うく直撃しようとしたとき、恐怖のあまり身動きも出来ないサンドラに、何とかアンドレが追いつきサンドラの身を捕まえ、そのまま倒れこんでいった。
次の瞬間にシャンデリアは床に叩きつけられガシャーンという音とともに砕け散る。
アンドレがサンドラの身体を捕まえたお陰で直撃を逃れた。
一部始終を見ていたオスカルは一瞬何が起こったのかわからない状態で呆然とした。
しかし、すぐに我に帰り、呼びかける。
「大丈夫か!アンドレ!」
呼びかけながら急いで中に入っていく。
「ああ・大丈夫だ」
アンドレが立ち上がろうとするのが見えた。
まず自らが立ち上がると、恐ろしさのあまり震えているサンドラに対して手を差し伸べる。
「立てるか?」
「え・ええ・ありがとうアンドレ」
サンドラは、差し出された手を取り、よろめきながら起き上がる。
アンドレはまだふらつく彼女の身を案じ、肩を抱いてしっかりと支えた。
サンドラは恐怖が消えぬ中アンドレの腕にしがみ付いた。
オスカルは二人の姿を見つめ、身動きも出来ないまま立ちつくしていた。