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うさぎ

夜のフェアリー92

「オスカル・・君はいつの間に?」

ジョゼフはいきなり現れたオスカルに驚きの顔を見せた。

その驚きの表情を見てオスカルは、ジョゼフが自分の行動に不快になったように思え、そこで頭を下げわびた。

「勝手に部屋に入ってきて、申し訳ありませんでした」

「けれど、学校から戻り、あまりに印象的な演奏が聞こえてきて、近くで聞いてみたい衝動を抑えられず、ここへきてしまいました」

「声をかけて曲を中断させたくは無くて、黙って入ってきた次第です」


オスカルがあまりに恐縮しているのでジョゼフは可笑しくなった。

「どうか顔をお上げになってください、僕は気を悪くしたのではなく驚いただけです」

「しかも、このピアノは当お屋敷の物、それを僕がお借りして弾いたのですからオスカルが謝るなんておかしいですよ」

ジョゼフが気安く許してくれたのに安堵し、オスカルは顔を上げた。

「それよりも、僕の演奏を褒めてくださってありがとうございます、たとえお世辞でもうれしいです」

「お世辞だなんて、そんな!」

オスカルは興奮してジョゼフの近くに走りよった。

「僕は殿下のピアノに感動したからこそ拍手したんです!」


しかしジョゼフは隣に来たオスカルを見つめながら答えた。

「僕はピアノを亡くなった母から教わり、その後は自己流です」

「幼ない頃の僕に母はピアノを聞かせてくれた、それが母との思い出の時間でした」

「体が弱くて両親と離れ、離宮で暮らしていたことはご存知でしょう?そこでの暮らしの退屈さを紛らわせるために打ち込んだのがピアノです」

「ピアノに慣れ親しんだ分、普通には弾けるようにはなりましたが」

「このような素人の演奏、恥ずかしくてとても誰かに聞かせるような代物ではありませんよ」

そうだった殿下はご両親と離れ、暮らしていたんだ、その寂しさを埋めるためにピアノを・・・

しかも、その間にお母上がお亡くなりになるなど、おいたわしいことだ

幼ないころに別れて暮らす母への思慕をピアノに込めて弾いていたのだろう


確かに殿下のピアノはプロのピアニストと比べるとテクニックでは劣るかもしれない。

でも、この方のピアノはとても心に染み入る、これだけでも人々に聞かせる価値があるはずだ。

オスカルは自分が思った感想を正直に述べた。

「そんなことはありません、僕は殿下のピアノに心をゆさぶられたのです」

「僕は殿下と同じく長年この屋敷の中だけで暮らし、楽器もそれなりに習いはしましたが、僕には殿下のような才能は開花されませんでした」


「僕と同じ・・・?この屋敷の中だけで暮らしてきた・・?」

ジョゼフはオスカルのその言葉に反応した。


「ええ、僕も喘息がひどくて、外へ出てはいけないと父から教えられ、屋敷の中だけで暮らしてきました」

「しかし、貴方は現在オーランド校に在学中だとか・・?」

「はい、喘息も良くなったのでオーランド入学が許されました、それまではこの屋敷に家庭教師を招いて勉強していたのです」

「それでは、・・・オスカル貴方は去年まで、この屋敷でだけの生活を・・・?」

オスカルが頷くのを見てジョゼフは、自分と同じような人が目の前にいることに驚いた。

しかし、オスカルは急いで付け加えた。

「といっても、たまには、保護者同伴で外出を許されることもありましたし、それに離れて暮らす母と妹に会いにロアンヌ村に行くこともあるので、殿下より自由でしょうね」

「お母上と妹君に会いに?」

「あ・・母はふるさとのロアンヌ村で暮らしています、妹も生まれてからずっと母の側にいて、離れて暮らしているので、たまに会いに行くのです」


何とオスカルは屋敷から出られないばかりか母親とも自由に会えない暮らしをずっと続けていたのだ

そこも自分と酷似している。

パリでも有名な資産家であるジャルジェ家の子息オスカルがこんな孤独な人生を過ごしていたことを意外に思った。

しかしオスカルはそんなジョゼフの驚愕など気にせず、自分の意見を述べる。


「殿下・・僕は、音楽評論家では無いけれど、ただひとつ言えることは殿下のピアノには人をひきつける何かがあるということです」

「そうでなければ、僕自身ここに足を運んだりはしません、僕は殿下のピアノの魅力に誘われたのです」

ジョゼフはオスカルの言葉に説得されていく

「本当にそうでしょうか?」

「ええ、もちろんです」


「もしここにバラの花束があれば殿下に贈りたいくらいだ」

オスカルの賛美の言葉を聴いてジョゼフは笑顔を見せた。

「それはうれしいな、僕はバラの花が好きなんだ」

「本当ですか、あ・でもオルレアーノにはバラが無いのでは?」

「ええ・そうです、写真や絵だけで、実際には見たことが無く、いつか本物のバラを見たいものだと憧れていました」

「バラはもっとも華やかで美しい花だ、その花がわが国には咲いてないのは嘆かわしい」

ジョゼフの話にオスカルは気がついた。

「それでは・・もしかして・・」

「バラの花の輸入をルイ国王に提案したのは、貴方では?」

それにジョゼフは答えた。

「ええ・実はそうです、父は僕の進言を聞きいれ、条例を改めました」

「そうでしたか、殿下自らが条例をなくす努力をなさったとは、殿下の国では珍しいことに、バラを育ててはいけないとの厳しい条例があるとは聞いていました」

「それも一部の権力者によって・・」

そこまでいってオスカルはあまり国の決め事に立ち入ってはいけないのではないかと気づき、はたと口を閉じた。

しかしジョゼフはオスカルが言い出せないでいる疑問に答えていった。

「ご存知の通り、バラ条例はバラアレルギーの国王の機嫌を取るため、大貴族達が作った条例です」

「オルレアーノは他の国より文化が遅れている、それは風習もそのままだということです、わが国ではいまだ身分制度が色濃く存在しているのです」


オルレアーノは貴族が領地を治め、平民がその下で働く古い仕組みだ

昔の貴族時代そのままの文化で、国民の貧富の差は激しいとジョゼフはオスカルに話した。

「今回のジャルジェ家とのバラを輸入する話でも貴族階級に認めさせるのには苦労しました」

「バラがいかにわが国に利益を生むか、国を存続させるために、これからは法律を変えていく必要があることを理解するよう勤めました」


いつのまにかジョゼフはオスカルに自分の本音を語っていた。

それは自分とあまりに似た境遇のオスカルだからこそ、ジョゼフの心のうちを明かしたのかもしれない

「たかがバラですが、ひとつ法律を変えることが、また次につながっていく」

「僕は貴族階級の身勝手で作られた因習から国民を解放させてやりたい」

オスカルは王子の考えに引き込まれた。


「王子・僕は今とても感動しています」

「王子が、まさかここまで志が高い方だとは思いもよりませんでした。」

「貴方なら、きっと王国を立派に継いでいける」

あまりにオスカルが感動してくれるのでジョゼフは面映いくらいだ。

しかし、次の瞬間には現実に眼を向けた。

「でもこれは単なる僕の理想です、君主制といっても、貴族の権限が強いと国王はただのお飾りにすぎません」

「それに全ての国民が味方ではない、責任を負わなくていい今の暮らしのほうが楽に思う人々も大勢います」

「実現は限りなく遠いのです」

確かに古い因習を覆すのは至難の業だ、それに自由とは責任をも負うべき権利、解放される国民自身にも反発を買う恐れだってあるのだ

「そうですね、結局完璧な理想の世界は人の手には入らないものなのでしょう」

「しかし、殿下はバラの条例を無くした、それは大きな変化です」

「ひとつのことをやり遂げる、それがどれだけ努力の要ることか、しかもそれを理解できる人などほとんどいない」

しかし、そのひとつをやり遂げようとする、その心こそが尊いのだ・・・


「殿下・・どうかお許しくださいませんか?」

オスカルは腰をかがめ片ひざを立て、もう片方は床にひざを着かせて、背を真っ直ぐに伸ばしてジョゼフを見上げる。

まるで騎士が王に中世を誓うかのごとくオスカルはうやうやしく頭を垂れた。

「僕が殿下を尊敬いたしますことを」

ジョゼフは驚愕した。

オスカルはジャルジェ家の跡取り息子で、オルレアーノはバラの輸入業の大事な取引先だ、だが、それでも彼が他人に媚を売る人間には見えない。

それが、こんな姿を見せるとは。・・・

彼は間違いなく自分の話に心奪われてくれた。

その気持ちを示そうと自分に出来る最大の称賛を表してくれたのだ。

ジョゼフはオスカルの自分に対する心遣いに礼をしたい気持ちになった。


両手を差出し、何も言わず、オスカルの手を握り立ち上がらせた。

「殿下?」


「オスカル・・貴方のためにもう一曲弾くことをお許し願いますか?」

「それは・・・光栄です、殿下」

オスカルは自分の心が通じたことを知り、喜びを溢れさせた。

ジョゼフは再びピアノの前に座るが、オスカルをちらと横目で軽くにらんだ。

「オスカル、二人きりの時はジョゼフ・と呼んでください」

「あ・・・そうでした・・」

「では・・ジョゼフ、どうかお聞かせ願いますか?」

ジョゼフがピアノの鍵盤に指を下ろし、それを皮切りに部屋中に曲が響き渡っていった。
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うさぎ
Posted byうさぎ

Comments 4

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2018/11/03 (Sat) 16:03

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2018/11/03 (Sat) 20:48
うさぎ

うさぎ

Re: 殿下とオスカル様、接近もありかな?いやいや。。

TMO様こんにちは。

ちょっとお出かけでしたので、11月3日は早めのアップでした。

今回、そうです、オスカル様と殿下がますます心を通い合わせる場面でした。

殿下のピアノがきっかけで彼の寂しさがますますわかり、オスカルさまも自分の生い立ちを話ことになりました。

こんな二人が理解を深めないわけがありません。


私は漫画や小説でも、読み手から見て、主人公に惹かれる要素が全くないのに、ハーレムのように次々とモテそうな男性に愛される話は好きではありません。

ちゃんと惹かれるところがあってこそ、愛情は成立します、お話の中でもそれがないと非常に陳腐に見えてしまう。

だから、自分で考えれる限りは、主人公の頑張りや魅力をお伝えしたいし、出来ればわかっていただきたい。

なので、TMO様オスカル様に殿下が惹かれる気持ちが理解くださってうれしいです♪

5章か、6章か、7章で(笑)殿下再登場で女だとばれた時点でオスカル様にプロポーズもいいですね♪面白いからやってみましょうかね♪

(すごい気の長い話だけど(笑))

ともかく殿下のピアノのことでまたお話が新たな方向に動きますのでお楽しみに♪







2018/11/04 (Sun) 14:07
うさぎ

うさぎ

Re: No title

AN様こんにちは。

そうです、ジョゼフ殿下のピアノでお二人はより近しい存在になってしまいました。

でも、殿下と親しくなりながらもアンドレとの温室デートは順調です♪

(これって二股に見えないか心配したりして・・)

アンドレへの愛情は一杯だけど、ジョゼフ殿下にも王子としてのオーラとカリスマを感じずにはいられないオスカルさまなのです。

今日は、ジョゼフ王子のピアノのことで困った話が持ち上がりました。

それによってオスカル様は何とかしようと考えてしまうのです。

2018/11/04 (Sun) 14:12