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うさぎ

夜のフェアリー160

翌日オスカルはオーランドに行き、授業を受けていた。

だが、いつもと違い、教師の話など聞いていない様子で、ただぼんやりと窓の外の景色を眺めていた。

アンドレはその姿を変に思った。

昨日一緒に海に行き、オスカルを屋敷前まで送り届けたとき、あんなに機嫌よくはしゃいでいたのに。

それなのに、今日はすっかり元気をなくしている。

一体どうしたというんだ・・・

昼休みになり、オスカルはフロレルに食欲がないと昼食を断り、そのまま温室に行った。

温室の扉を開くといつものベンチに座る。

相変わらずぼんやりとした眼でバラを見つめた。

バラの美しさでさえ、今日のオスカルの心を和ませてはくれない

その直後、アンドレがドアを開いて温室に入ってきた。

「オスカル!」

あまりにも早い登場にオスカルはいささか驚きの表情になった。

アンドレは駆け寄りながら声をかけた。

「お前、今日はどうしたんだ?」

どうやらオスカルが心配でアンドレも昼食を断ってきたらしい、その足で温室にやってきたようだ。


「昨日はあんなに楽しそうだったのに・・・」

言い終わらぬうちに、オスカルもベンチから立ち上がり、そのままアンドレの胸に飛び込んできた。

何も言わずすがるように胸の中に顔をうずめるオスカルに、アンドレは面食らってしまう。

顔を覗き込むと思いつめた表情、その瞳には涙があふれている。

アンドレはオスカルの身体をしっかりと優しく包み込むように抱きしめた。

「オスカル・・・どうした?」

「俺に言ってみろ、何でも聞いてやるから」

彼に優しく問われ、オスカルは口を開いた。

「昨日・屋敷に戻ってお父様の部屋に呼び出されたんだ」

「僕が屋敷に帰る前、父はおじい様に呼び出され、そこでお父様を当主の座に据えるとおっしゃられたのだ」

ジャルジェ様が、いよいよ当主になられる?!

「おじいさまは、僕がジャルジェ家を継げるようになるまで当主でいるつもりだったんだが、もう自分には無理だと悟り、父にその座を譲る気になったんだ」

「もちろん、父が力を注いだバラ事業を認めたからでもあるが」

「そうか・・ジャルジェ様の努力が実ったんだな」

「お父様とすれば願ったり叶ったりの話だが、問題は僕のことだ」

「お父様は、時期を見て僕を女に戻すといわれた、けど長いことおじいさまをだましていたのだ、知ってしまえば、ただでは済むまい」

「僕が女だってわかるとおじいさまは父の当主の座を剥奪するかもしれない」

「お父様はそれを懸念して、これから自分の直属の部下を昇進させ味方を増やすという、そしてジャルジェ家を手中に収め、おじいさまから全ての実権を奪うつもりなんだ」

「そうしなければ家族の幸せは守れないと父は、言った」

「だけど・僕は・おじいさまに申し訳なくて・・・」

アンドレは話を聞いてオスカルの悩みを理解した。

ようやく息子を認めた父から息子自身が権力を奪うなど、オスカルにすれば家族を守るためとはいえ、年老いた祖父を哀れでならないのだろう。

オスカルお前は優しすぎて他人の痛みにすぐに傷ついてしまう

「そうか・・・」

「それはつらかったな・・」

泣いている子をあやすように優しく声をかける。

そして髪をなでながら慰めていった。

「確かにお前にすれば、ジャルジェ様のやってることはおじいさんへの仕打ちにしか思えないだろう」

「しかしジャルジェ様だって、ばれた時点で自分のしたことをおじいさんに詫びて許しを請うだろう、親子なんだから」

「おじいさんも、息子夫婦の幸せを最優先に考えられるまでになれば、ジャルジェさまだっておじいさんに対して反旗を翻すようなことはなさらないはずだ」

アンドレはオスカルの気が楽になるように考えを述べた。

「お前の話も一理ある、だが僕はそう簡単にことが運ぶとは思えないのだ」

「おじいさまをだましていたのは僕らなのに・・・」

オスカルには悪いことをしたのは自分達で、だまされたおじいさまからの罰する権利まで奪うのは非道に思われたのだ。

オスカルの暗い顔がそう物語っている。

アンドレは理想論ではなく事実を述べることにした。

「ジャルジェ様は、父親であるおじいさんよりも、お前の母親のフローラ様を選んだ、その時点で道は決まってしまったんだ」

「いまさら後戻りは出来ない、ジャルジェ様には、もう最後までやり遂げるしかないんだよ」

そうだ、父は、家族を守る道をとった、どんな犠牲を払ってでも。・・・

「オスカル・・俺がジャルジェ様なら同じ選択をしたと思う」

「お前が、父と同じことを?」

あまりに意外な話にオスカルは顔を上げて問うた。

アンドレは真面目な顔で答えた。

「そうだ、女としての人生を奪われたお前にはひどいことを言うようだが、愛する人のためなら、俺だって同じようにした」


女の子として生まれたわが子を男の子として育てる、アンドレにそんなことが出来るわけがない

「馬鹿な!お前にそのようなことが出来るわけがない!」

オスカルにはアンドレがそのようなことをするなど到底信じがたい。

それでもアンドレは言い張るのだ。

「出来るさ、それでお前が手に入るなら、俺は人をだましうそだって付くだろう」

「実際、俺はお前と表面的には男友達だと周囲を偽り、影でこうして恋人として過ごしている」

「そ・それは、関係ないだろう!僕が男の子のふりをしてるから、お前は仕方なくそれに付き合ってるだけなんだから」

アンドレはそれについて悲しそうな顔で言った。

「今の関係のほうが俺にとって都合がいいからな、女に戻られるとお前は他の男に取られてしまう、お前を元の姓に戻してやりたいと願っているのに、矛盾してるよな」

「こんな形でしかお前の側にいられないのは心苦しいが・それでも俺はお前を離したくない」

「アンドレ・・・」

彼のつらい気持ちを思うとやるせなくなる。

「人って生き物は身勝手なんだ、欲しいものを手に入れるためなら誰かを犠牲にしてもいとわない、だが、その代償は高くつくだろうが」

アンドレはお父様のやったことを自分に見立てて言っているのだ、誰しも自分の望みをかなえるためなら他人を犠牲にすると

僕の気持ちが楽になるように・・彼らしい思いやりだ

お父様も、その代償を支払うときがくるのだろうか?・・・

オスカルは首を横にふった。

「お前は・お父様とは違う」

アンドレの腕をぎゅっとつかみ、オスカルはさらなる不安を口にした。

「アンドレ・僕の悩みはそれだけじゃないんだ」

「父は・・・当主としての地位を確立した直後に、僕を女に戻すといわれた」
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