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うさぎ

夜のフェアリー170

とりあえず飲み物を取りに行こうと二人が歩いた先、たまたま近くにいた紳士達の話し声が聞こえた。

「やはり、レニエ氏が次の当主となったか!」

「ジャルジェ卿は息子レニエに跡目を継がせないんじゃないかとの噂もあったが・・」

「なかなか息子に家督を継がせなかったのは孫のオスカルに直接譲ろうとしていたんだろう?」

「ジャルジェ卿レニエとは長いこと不仲だったからな・・」

「不仲の原因は、フローラ夫人・・だな、やはり・・」

「ああ、ジャルジェ卿にすれば、元メイドだった女だ、嫌うのも無理は無い」

「レニエの元婚約者はかなりの資産家令嬢だったからな、しかもそれが原因でジャルジェ家を衰退させたのだから」

「やはり立場の違うものとの結婚など、すべきではなかったんだ」

お母様がメイドだったから、おじいさまがお二人の結婚に反対していた・・それが原因で長いことお父様と不仲だった・・

そして私はお母様の娘だから・おじいさまは私を孫として認めなかった。

うすうすわかっていたとはいえ、現実を突きつけられ激しくショックを受けた

イヴリンは顔色を変えて、パーティー会場から逃げるように立ち去った。

アンドレは、急いでイヴリンの後を追った。

イヴリンはパーティー会場から出てバルコニーまで来て手すりに両手を付いてもたれた。

すぐにアンドレも追いつき、バルコニーにいるイヴリンの隣に来た。

アンドレはどう慰めてわからないでいたが、イヴリンから話を切り出した。

「お母様を選んだお父様をおじい様はよほど許せなかったのね、だから私を遠ざけたのだわ」

そういえばオスカルが以前言っていた。

イヴリンにはロアンヌ村で平和に暮らしていてほしいと、ロアンヌ村でこそ彼女はパリでも有名なジャルジェ家令嬢だ。誰も彼女を蔑んだりはしない。

しかしパリに出てくれば、彼女は元メイドの娘で社交界デビューも果たしていないただの女の子なのだ。

「イヴリン、君だってオスカルと同じジャルジェ様の血を引いた子供じゃないか」

アンドレの慰めもイヴリンは受け入れられなかった。

「兄妹でもオスカルと私とは違うんだわ、同じようにお母様の血を受けていてもオスカルは特別だから認めてもらえるのよ」

「オスカルはおじい様の今は亡き奥様のミレーユ様にそっくりなんですって」

「それに・オスカルは男子ですもの・・おじい様は跡継ぎを望んでられた、しかもその上最愛の妻に酷似していたなら、身分の低いものから生まれようと愛しく感じるのね」

「だけど、私は女で、しかもお母様の血を濃く受け継いでいる」

イヴリンはパリに来て憧れの上流社会の社交の場に出られると喜んでいたのだ。

だが、思っていたよりも自分は上流社会から認められない存在だったのにショックを受けていた。

「正式に社交界にデビューしておらず、メイドだったお母様の娘で、おじいさまからも認めてもらえてもらえない」

「オスカルがうらやましい・・」

そうじゃない・・・

イヴリンから見ればオスカルは祖父からの愛情を一身に受けて、早くから社交界デビューし、将来ジャルジェ家の跡継ぎの座を約束されている恵まれた人物だろう。

同じ血を分けた兄妹でありながら、どうしてここまで違うのか彼女にとって不公平な現実だ。

だが・・そうじゃないんだ


実はオスカルは君と同じ女性で、家族を守るために男としての人生を歩まざるを得なかったことを。

実際は君よりももっと悲しい人生を歩んでいるのだと・・・

しかし、それをイヴリンに言うことは出来ない。

オスカルはまだ男として生きねばならない・・・

「上流社会は生まれや育ちが何より大事、ここでは私は異端な存在なんだわ」

嘆くイヴリンの気持ちを和らげようととアンドレは突然イヴリンの腕を握った。


「君が異端なら、オレだって同じ異端者だ」

「だって貴方はオーランドの秀才で・・」

「俺はジャルジェ様からの援助で、パリのオーランドに入学できたが、もともとはバラ園で働いていた労働者だ、しかも両親もいない孤独な身、お嬢様の君よりもこの場にふさわしくない人間なのさ」

そういえば、彼はお父様の援助でオーランドに入学したのだわ。

「そんな俺がパリに来て金持ちばかりのオーランドに入学し、受け入れられたと思うかい?」

いきなりのアンドレの話にイヴリンは眼をぱちくりしながら聞き入った。

「俺の素性を知らない間は気さくに話しかけては来るが、労働者の出だとわかったとたんに見る目が変わり、冷たい態度だ」

「わざと聞こえるように、ここは貧乏人がいる場所ではない、とまで言われたこともあるよ」

「そんな・・ひどいわ」

「俺自身そうなることはわかっていた、だからやつらに負けないよう勉強に励んだ」

「一位を取れば教師達に一目置かれる存在になり、馬鹿にされることは無い、それどころか自然と周りに人が寄ってくる」

「学校という空間の中は勉強が出来るものが絶対の強者になれるのだから」

知らなかった・・アンドレがこんな思いをしてきたなんて・・

「しかし、それは表面上だけのことだ」

「内心では俺のような身分のものが同じ場にいるのを面白くない、そう感じているやつは今でも大勢いる」

「だけどその中でわずかな人数でも俺自身をわかってくれて親しくなっていく、俺はそんなつながりが実際にあると信じてオーランドでここまでやってきたんだ」

アンドレはイヴリンに訴えかけながらもオスカルと友となったときのことを思い出していた。

今でも俺がその考えでいられるのは、オスカルがいてくれたからこそ・・・

オスカルこそが一番に俺を認めてくれた、友として、そして、一人の男として・愛してくれた。


イヴリンはアンドレがいかに努力して今の地位を築いたかを聞き、感動する思いだ。

「イヴリン」

「君はオスカルとは違うかもしれないけどフローラ様ゆずりの美しさも愛らしさもかね添えている」

「年齢を重ねれば、きっともっと美しくなり花開くだろう、そうなれば誰も君の事を影でいうやつなどいなくなる」

「君は両親もおらず、貧しい出の俺とは違って、れっきとしたジャルジェ家の令嬢だ、もっと堂々としていいんだ」

「何を言われようが忽然とした態度で見せ付けてやればいい、気位だけ高い上流社会の人間達も、いつか君を認めざるを得ないだろう」

アンドレの言葉はイヴリンの胸に響いていった。

それは、自分と同じ上流階級からは認められない身分の彼だからこそかもしれない

だが、間違いなく彼の言ったことによって心が癒されていった。

「ありがとう・アンドレ・・」

「とても・・心が慰められたわ・・本当に・・貴方ってやっぱりいい人だわ・・」

涙を流しながら感動を口にする。

「ほら、涙を拭いて、美人が台無しだ」

ハンカチを差し出しイヴリンに手渡す。

「ああ、そうね、お化粧が崩れちゃ大変だわ」

急いで涙をぬぐう様子にアンドレは笑みがこぼれた。

やはりイヴリンは素直ないい子だ、妹がいればこんな風だろうか?

「イヴリン、良ければダンスを誘ってもいいかな?」

「え・ええ!もちろん!」
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Posted byうさぎ

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