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うさぎ

夜のフェアリー179

二人の作業員が農園に出勤してきた。

「おはようニコル」

「おはよう、・リュカ」

ここでは、すぐに仕事に取り掛かれるよう、作業員が交代でバラの栽培道具を準備するのだ。

今日はこの二人が当番の日だった。

ニコルとリュカは栽培道具が入った小屋につくまで、話をした。

「昨日から来たアンドレとかいうオーランドのおぼっちゃんは、来るのかな?」

「さあ?勉強しかしたことのないやつに、バラ作りは厳しいと思うけど」

「そうだよな、美しいバラを育てるのは根気のいる作業だ、それが本しか読んだことがないおぼっちゃんに将来経営を任せるなんて、ジャルジェ様は何をお考えなのか」

しかし道具小屋の前で誰かが忙しく作業をしていた。

よく見れば、それは噂の本人のアンドレだった。
アンドレは二人を見つけるなり、挨拶をしてきた。

「リュカさん、ニコルさん、おはようございます」

「あ・あ・おはようございます、アンドレさん」

「おはようございますアンドレさん、こんなに早く・・・」

二人は気まずそうに挨拶を返した。

聞こえていたはずなのにアンドレは気にもせずに気さくに返答した。

「いろいろと学んでおきたいので、出来るだけ早くに来ることにしました」

「道具を手入れしておいたのですが、よろしかったでしょうか?」

見てみるとアンドレは皆の剪定鋏やスコップやバケツをすでに準備していて、しかも綺麗に汚れをふき取られていた。

「これは・・・申し訳ない」

「いいえ、勝手にやらせていただきました、しばらくの間ですが、どうか俺のことを弟子だと思って教えてやっていただけないでしょうか?」

ニコルとリュカは将来の経営者に、まさかこんな低姿勢にお願いされるなど思っても見なかったから驚いた。

そして、仕事が始まる時間になり、全ての作業員が仕事に就き始めた。

「今日の道具は偉く綺麗だな」

「本当だ、新品同様に磨いてあるじゃないか」

並べてある道具がいつもより光っているのに気が付く人は多かった。

ニコルとリュカがそれに答えた。

「それが、オーランドのおぼっちゃんがやってくれたんだよ」

「そうなんだよ、朝早くから来ていて、俺達が来たときにはすでに準備されていて」

「しかもバラ作りを教えてほしいとお願いされちまったし」

将来ここを経営するアンドレが自分達にお願いするなど仰天の事実だ。

しかし、将来の経営者に教えを乞われるなど、悪い気はしない。

「へえ、偉く一生懸命なんだな」

「仕方ないな、カールさんにも昨日頼まれたし」

「そうだな、やりたいっていうんだから、とりあえず手伝ってもらうか」

そこで、バラ職人達はアンドレに仕事を振るようになった。

水遣りをして、肥料と害虫駆除と剪定
与えられる仕事を次々とこなしていくアンドレに作業員は驚いた。

「アンドレさん、こういう仕事をやったことがあるんですか?」

「はい、実はバラ作りが好きで、オーランドでも温室を借りて育ててるんです」

アンドレは自らの生まれや育ちにはふれずに、オーランドでの温室でのバラ作りのことだけ話した。

「そうか、それで仕事に無駄が無いんだな、てきぱきやってくれるから助かるよ」

いわれたことだけでなく、自ら気がついた仕事を行うアンドレに作業員達は感心もした。
このようにバラ職人達と一緒に働く毎日を過ごすようになった。


「アンドレ、お昼を持ってきたわよ」

イヴリンがいつものようにアンドレに昼食を持参してきた。

「やあ、イヴリンいつも悪いな」

重そうなバスケットのおかげでイヴリンはハアハアと荒い息を吐いている。

「弁当を作ってくれなくても、俺は店で買うからいいのに、毎日持ってきてくれて申し訳ないよ」

「いいえ、とんでもないわ、貴方のことはお父様から頼まれているんですからね」
「それに、今日は貴方の分だけでなく、農園の皆さんの分もお持ちしたのよ」

今日はイヴリンだけでなく使用人も一緒に来ていた。

イヴリンと同じように弁当入れを持っている。

中身はミートパイとバゲットサンドとガレットとフルーツが入っていた。

敷物をしいてその上に弁当を並べてみせる。

「今日はガレットを焼いてみたの、皆さんもどうぞ召し上がって」

思わぬご馳走に作業員達は喜んだ。

「私達の分まで準備していただいて、ありがとうございます」

「美味しそうなガレット、イヴリン様のお手製ですのね」

「では、ありがたくいただきます」

イヴリンのおかげでピクニック気分の昼食となった。

「アンドレ、貴方もバゲットサンドをどうぞ」

イヴリンがアンドレにサンドを手渡す。

「ありがとう、わざわざみんなの分まで、気を利かせてくれたんだな」

「いいえ、皆さんに喜んでいただけて良かった、たくさん食べてね」

「その代わり、今度パリに行ったときは、遊びに連れて行ってくれるんでしょう」

「ああ、これだけお世話になったんだから当然だよ」

二人のやり取りを見て作業員達がはやし立てる

「二人とも仲いいね、お似合いじゃないか」

「お嬢さんは、綺麗だし、お料理も上手だから良い奥様になるよ」

それを聞いてイヴリンはいやだわ、といって恥ずかしがり、アンドレは焦って返事した。

「とんでもない、イヴリンはジャルジェ様の大事なお嬢様ですから、俺なんかには恐れ多いですよ」

アンドレは数日の間に農園のみんなやイヴリンとすっかり仲良くなっていた。


農園の仕事が終わってロアンヌ村のジャルジェ家に戻る

「ただいま帰りました」

「おかえりなさい、アンドレ」

フローラと先に帰ったイヴリンが迎えてくれた。

「夕食が出来ているわよ今夜は鶏肉のトマト煮込みスープに豚肉のコンフィにニース風サラダよ」

「それは美味しそうだ、楽しみですよ」

「では着替えてきます」

「ええ、後でね」

二階の自室に行こうとするアンドレにフローラは思わず呼びかけた。

「あ、そうだわさっき貴方に手紙が届いたのよ」

「俺に手紙が?」

「テーブルの上において置いたわ」

「ありがとうございます、では」

フローラからの伝言を聞いてアンドレは急いで自室に向かった。
扉を開けてテーブルの上を見ると、白い封筒の手紙が置いてある。

やはりオスカルからだ。


アンドレ、毎日バラ作りの作業に追われているんだろうな。

お前はそこで働く人たちと仲良くやっているだろうか?

先日のお前の手紙には、そのことは書かれていなかったが、かなり苦労しているのではないか?

僕に心配させないよう考えて書かなかったのだろう、いきなり知らない場所で働くのだから大変な思いをしているのは想像ができるよ。

お前のことだから頑張っているのだろうが、つらく思うことがあれば、聞かせてほしい。

お前の悩みは僕の悩みでもあるんだ、打ち明けてくれないほうが寂しく思う。

それから、僕のほうは、先日おじいさまにバイオリンを聴かせて差し上げた。

曲目はもちろん『カノン』だ。

おじいさまは、それは熱心に聴いてくださって、何とアンコールまでお願いされてしまった。

まあ、2曲目の終わりには眠ってしまわれたが、気持ちよさそうな寝顔だったから、聴きごこちが良い音だったんだろう。

お前に聴いてもらって練習した甲斐があったよ。

アンドレ、毎日お前のことを考えている

早く会いたい お前の声が聞きたい お前の顔が見たい

そればかり考えている

「俺もだ・オスカル」

思わず手紙に口付けをした。
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