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うさぎ

夜のフェアリー7章の24

オスカルは部屋に戻るといきなり落ち込んでしまった。
もしかして、 マルゴなら働くのを後押ししてくれるかもしれない、そう思った自分が甘かったのだ。
むしろいかに自分が役に立たない人間かを自覚してしまった。
やはり僕はアンドレに頼って生きていくしかないのか・・・

悩んでいると早く時間は過ぎていく

「ただいま」
アンドレが戻ってきた。

「あ・お帰り」

いつもより早めな帰還に急いで出迎えるとアンドレはうれしそうな顔でオスカルを抱きしめてきた。
いきなり抱きしめられオスカルは訳が分からなかった。

「どうした?」

アンドレはオスカルに笑顔を向ける。
「オスカル!喜んでくれ」
「俺臨時ではなく社員として雇われることになったんだ」

正式に、ということは・・

「では・・お前は・・」

オスカルが言う前にアンドレは大きな声で叫んだ。
「そうだよ、正式に社員として認められることになった!」
「これでいつ首を切られるかとびくびくしなくて良くなる、賃金も上がって暮らしも安定する」

思わぬ朗報にオスカルも喜んだ。
「そうか、社員になれたのか、よかったな!」
「お前の努力が認められたんだ」
「ありがとう、お前が支えてくれたおかげだよ」
「そんなことはない、お前の力だ」

二人とも興奮を冷ますため、お茶を飲みながらアンドレが社員に慣れた経緯を話し始めた。

「こんなに早く社員になれるとは俺も思ってなかったんだ」
「しかし、工場長が社長に口利きをしてくれて、社長も同意見だったらしくすぐその場で決まった」
「会社としてもひと月にもならずに決めるなんて異例なんだが、俺の頑張りを認めたからだと周りも言ってくれたよ」

アンドレならば当然だ。
オスカルはアンドレの話を聞いていくうちに、彼のオーランド時代の頑張りぶりを思い出した。
彼はオーランドで一位をとり続けたのだ。
もともと頭がいいのだが、秀才ぞろいのオーランドで首位を譲らずにいられたのは、彼の並々ならぬ努力の賜物だった。

今回だって彼は朝早くから出勤し、夜も遅くまで残業をこなしていた。
彼の性格から行くと仕事ぶりだってまじめで優れていたに違いない。
そんな彼がいち早く正式な社員として認められるのは当然のことであろう。

アンドレはよほどうれしかったのか、会社での出来事をオスカルに聞かせた。

「朝早く出社してたことも認められた大きな要因なんだ」
「少しでも早く機械になれようとして使い方を練習したりしてたら、工場長も朝早くきて点検する人で、話をする機会に恵まれた」
「工場長が、俺はどうやら学があるようなのに、なんでこういう仕事を選んだのかと質問してきた」
「そこで俺は、両親がいなくて弟と二人暮らしだから、学校をやめて働くことを選んだ、と伝えたんだ、するといたく感心してくれて」
「しかも気に入ってくれて、仕事でわからない時は、熱心に教えてくれるようになった」

「先輩社員達も、口は悪いが気のいい人たちばかりで」
「中でも、ウィリーっていう面白いやつがいて、彼は俺より少し先に入社した、新米なため、まだ一人前の腕ではないんだ」
「そのため、機械の操作がうまくいかず、やつときたら、先輩らに聞くと、またかよって叱り飛ばされるから、アンドレ教えてくれって、こっそり言いに来るんだ」

「同じところを何度も聞くから、少し残って練習するか、と聞いたら、いや、デートがあるんだってさっさと帰っていく」
「いい加減なやつだが、話していて面白いし、憎めないタイプの同僚だな」
「もちろん厳しい先輩もいて、自分のやり方と違うといちいち指摘されることもある、だけど、個人によってやり方が違うんだ」
「説明してわかってもらえる先輩もいるが、到底理解してくれない人もいる・・」

アンドレが仕事のことで悩みを言い出すのは初めてだ
「わかってくれない者には、どうするのだ?」
「そういう時は、その場ではとりあえず努力するよう答える、だが、自分の納得した方法でやるさ」
「でも、見つかったときは?」
「その時は、努力しているんですがついつい癖になってるんで、とその場をごまかすよ、だけど仕事の結果を出せば、そのうち何も言わなくなっていく」

「能力を発揮すれば認められる、それが会社のいいところさ」

相手に逆らうのではなく、実力を示して理解してもらう、アンドレらしいやり方だ。
どんな場所にいようともお前は才能を発揮できる
僕とは、大違いだ。・・・

生き生きと仕事の話をするアンドレを見ながら、オスカルは自分との差を感じずにはおられなくなった。
次第に表情が曇っていく

アンドレはそれに気づき。
「オスカル?」

オスカルはアンドレの問いに答えようとはせず、ついには涙までこぼれた

「いったいどうしたんだ?」

オスカルはようやく顔を上げアンドレに眼を向ける
「アンドレ・・・僕はお前がうらやましい」
「俺が・?」
アンドレには訳がわからない

「だって・・・お前には、やりがいのある仕事も仲間もある、僕にはないものばかりだ、僕はここで一人お前の帰りを待つしかないんだ」

アンドレは返事に詰まってしまった。

「お前が見習いから社員になれたこと、心からうれしいと思う・・だけど・・」
「これからもお前が遅くまで仕事して夜中に帰ってくる日が続くのかと思うと空しくてたまらない」

その言葉を皮切りにアンドレは叫んだ。
「オスカル お前との暮らしを守るためだ!」
「暮らしていくには金がいる、その金を稼ぐのが俺の役目だ、一人にして悪いとは思うが今はこらえてくれ」

何とかわかってもらおうとアンドレは説得を試みるが、寂しい思いをさせるのはお前のためといわれ、オスカルはきっとアンドレを睨んだ。
「僕のため!僕をこの部屋に縛り付けてか!?」
「お前は・僕がまだ世間を知らないから、それを学べといったが、学校をやめ、仕事も持たずに狭い部屋の中でしか生きられない僕がどうやって世間を知れというのだ」
「毎日お前から教えられた家事をやり、限られた人たちとだけ話し、あとはひたすらお前の帰りを待つだけ!」

言いながらオスカルは次第に興奮していった。
「それなのに、お前は職についてからというものの、朝早くから夜遅くまで戻ってこない!」
「やっと帰ってきたかと思えば、疲れて眠るばかりの日々で、僕の話もろくに聞いてくれないじゃないか!」
「オスカル・それは・・」

アンドレが何か言いかけるがオスカルはもはや聞く耳を持たない
「パリにいるときは!」
「オーランドに行けば、毎日お前にあえて、温室で語り合えた・・」

アンドレはその言葉にギクリとした。

「あの頃のお前は許される限りの時間を、僕のために使ってくれていた・・・」
「なのに・今は一緒にこうして暮らしていながら、話も満足に出来ない」
「世間のこともわからず、仕事に就くこともできず」
「いつの間にか僕はお前に頼らなければ生きることもできない存在になってしまった」

オスカルは心の中の鬱憤をすべてさらけ出した。
アンドレの衝撃も知らず

「・・・お前は・ジャルジェ家にいたほうが良かったのか?」

見ればアンドレは驚くほど暗い顔だった。

「俺とジャルジェ家を出たのを・後悔していると?」
「そ・そうではない!」
オスカルは急いでいった。

「だが・・こうして・この先もお前を待つだけの生活かと思うと・・たまらないんだ・・・」

二人の間に長い沈黙が訪れる

オスカルに寂しい思いをさせているとはわかっていたが、日々の暮らしの忙しさのため、わざと考えないようにしていた
以前のオスカルは誰にでも注目され輝いていた
それなのに、俺とエレインにきて隠れ住むように暮らし、元の輝きを失ってしまったというのか・・・

やがて重い口を開いた。
「お前の気持ちは分かった」
「俺も考える時間が欲しいから、今日は、もう寝るとしよう」

まるで最後通告のように言い渡されオスカルは内心焦る
何てことを言ってしまったのだろう、彼は僕がジャルジェ家から出たことを気にしていたのに

しかし、その時のアンドレには何を言っても無駄のように思え
ともかくそのままベッドに行き、お互い何も言わず一晩を過ごした。
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