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うさぎ

夜のフェアリー7章の33

自分の仕事はデジレが復帰するまで・とはいえ、明日から仕事がなくなるのをオスカルは寂しく思った。
せっかく仕事にも慣れ、やりがいを感じ始めたところだったんのにな・・・
しかし、これは最初からわかっていたことだ。

「今日まで、ありがとうございます、 マルゴさん、こんな僕を使ってくださって感謝しています」
「デジレさん、元気になられてよかったです、明日から頑張ってくださいね」
オスカルは寂しい気持ちを吹っ切るようにデジレの手を握り励ました。
「ありがとう、オスカルまた頑張っていくわ」

デジレは、その後、うれしそうな顔で帰っていった。
オスカルはそれを見送りながら、やはり仕事に戻れるのがうれしいのだと強く感じた。

「それから、オスカル」
「はい」
後ろから マルゴに声を掛けられ急いで返事した。

「あんたにもう一つ話があるんだけど」

「それで マルゴさんの話って何だったんだ?」
オスカルは、 マルゴからの話をアンドレに聞かせていた。

「うん・・・それがな・・・」
「 マルゴさんは、僕にこう言ったんだ」
オスカルはゴクンとのどを鳴らして マルゴが言ったことをアンドレに告げる


「オスカル、貴方、店で働いてみない?」
「お店で・・・僕が?」
マルゴはにっと笑って続けた。
「そうよ、ウェイターとして、夕方からの仕事になるけど、うちの店だから便利だと思うのよ」

確かに マルゴの店ならすぐ下の階だから何かと都合がいい

「し、しかしどうして僕を?」
「実はね、あんたに掃除の仕事を進めたのは、あんたの本気度を見たかったからなの」
「あんたに仕事の相談をされたとき、うちで雇おうかと考えたけど判断に苦しんだわ」
「あんたはお金持ちの令息として暮らしてたから、人の下で働けるかどうか・・、おまけにあまり身体も丈夫じゃないと聞いている、果たして使い物になるかどうか知りたかったの」

「そこへちょうどデジレが腰を患って休息が必要だったから、あんたを試してみたの」
「でもあんたは毎日愚痴一ついわずに頑張ったわ、あたしとしては少々厳しいことも言ったのにね」
「 マルゴさんはそこまで考えてくれていたんですか・・」
「誤解しないでね、あんたのためだけではないのよ、あんたくらいの美貌の青年がいれば、店に品が出るわ、しかも女性客も増える可能性だってある」
「どうかしら?夜の仕事だし、客相手だから掃除の仕事よりも大変なことが増えると思うけど・・・」

「というわけなんだ」
「それで・・・お前はどう返事したんだ?」
アンドレは慎重に話を聞いた。

「うん・・・僕は・・・」

オスカルはアンドレの反応が気になったが思い切って言った。
「喜んで働かせてもらいます、と答えた」

しばらく沈黙が二人を包む。
「・・・・」

しかし、その沈黙をアンドレが破った。
「良かったな、 頑張ったおかげで仕事を手に入れたんだ、 マルゴさんには感謝しなけりゃな・・」
「そ・そうだな」
てっきり反対されると思ってたのに、気持ちよく賛成してくれるなんて・意外だ!

オスカルの驚いた顔にアンドレが気づいた。
「どうかしたか?」

「いや、お前があまりにあっさり承知するから驚いたんだ」

アンドレは苦笑しながら答えた。
「俺が反対しようがお前は、もう決めているのだから仕方ないだろう」

「それはそうなんだが、いつもお前は・・・?」
てっきり反対されると思ってたからなんだか拍子抜けしてしまった

「掃除の仕事を熱心にやってるお前の姿を見ていると、いつかこんな日が来る予感はしていた」
「俺はお前のやりたいことを応援するよ」

オスカルは自分一人の手の中で守られる存在ではない
こいつは自分で道を切り開くやつだ、それを俺は止めるのではなく応援してやろう
それが俺にできるオスカルへの愛情だ。
アンドレはアンドレで思うことはあったのだ。

「そうか・わかってくれて・・うれしいよ」
アンドレは自分の気持ちをわかってくれた、それがうれしかった。

「仕事はいつからなんだ?」
「明日からだ」
「明日?それは急だなお前大丈夫なのか?」

「一応やることは聞いた、客の注文を聞いて料理や酒を運ぶのと、店が始まる前の準備と終わるまでの準備だ」
「メニューの写しはもらってきたのだが、問題は僕がうまく接客できるかだな」

早々と話を進め、もう準備に取り掛かっている。
オスカルらしいとアンドレはため息を吐いた。

「しかし、夕方からの仕事だと帰りは遅くなるな」
「お前も忙しくなるから、夕食は俺が作るようにしようか?」
「いや、夕食は『 マルゴ』でまかないを出してくれるんだって」
「お前は僕のために出来るだけ早く戻って夕食を一緒に食べるよう努力してくれてたが、これからはお前も僕のことを気にせず、職場のみんなと食べてくれていいんだ」

アンドレは、オスカルが家で一人の時間が長いゆえに、これまで残業を抑えて一緒に夕食を食べていたのだが、オスカルはこれにも心苦しく思えていたのだ。

「そうか・・ではこれから俺も心置きなく働くよ」
アンドレはいささか寂しい思いではあるが、オスカルと支えあって生きていくには、これも試練の一つだと理解した。

「じゃあ、今日は二人でゆっくりできる最後の晩餐だな」
「そうだな・しかし休日には一緒の時間を持つようにしよう」
「ああ・もちろん」
「では話も終わったところで夕食と行くか!」
テーブルの上には牛肉の赤ワイン煮込み、カナッペとジャガイモのグラタンとニース風サラダとご馳走が並んでいる。

今日のメニューはオスカルが考えた。
これから休日以外は二人きりの夕食が出来ない、二人で作る夕食作りも必要なくなる、だから今日作る料理は出来る限りのご馳走にしておきたかった。
もちろんワインも買っておいた。

「乾杯」
二人は同時に乾杯、と言い合って手にしたグラスをカチンと鳴らした。

「お前の仕事が決まったお祝いだな」
「ありがとう、頑張るよ」

ワインを飲むとアンドレはさっそく牛肉の煮込みを口にした。

「うん、上手いじゃないか!」
「お前、なかなか料理が上達したぞ」
「まだお前にはかなわないけどな、だけどこれからはたまにしかお前に教えてもらえないな」

アンドレと一緒に料理する時間をなくすのは、とても惜しいと思う。
それはアンドレにしても同じだ。
「そうだな・けど俺たちの生活は一歩前進した、それは事実だ」

そうだ、僕たちの暮らしは一歩一歩進んでいる・

いつか二人で夢をかなえるんだ、きっと
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Posted byうさぎ

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